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インテリアプロダクトブランド HAY (ヘイ)

デンマークデザインの伝統と革新で変わる日本市場

デンマークの伝統的なデザインに対する考え方を受け継ぎながら、同時に革新的なデザインも積極的に取り入れている、インテリアプロダクトブランドのHAY(ヘイ)。

現在、デンマーク・ノルウェー・ドイツ・オランダ・上海などの国にショップを構えている。コペンハーゲンにあるフラッグシップショップのHAY HOUSEを中心に、インターナショナルな視点で、様々なライフスタイル関連商品を展開している。

HAY / ヘイ
https://www.welcome.jp/brands/hay

HAYは、Rolf Hay(ロルフ・ヘイ)が2002年に設立し、2003年のケルンフェアでデビューしたデンマークのインテリアプロダクトブランド。50年代、60年代のデンマークの家具デザインを大切にしながらも、新しいデザインを取り入れた商品開発を行う。北欧デザインというカテゴリーにこだわらず、インターナショナルな視点を持ち、家具、インテリアアクセサリーからデコレーションアイテム、ステーショナリーなど、ライフスタイル全体をコーディネートすることができるコレクションを展開。ホームユースのプロダクトだけでなく、ホテルやレストラン、教育施設など多くのプロジェクトも手掛けている。

そして、各国のHAYのショップとは一線を画して、“個性”を引き立たせた展開をしているHAY TOKYO。今回MMDでは、2019年10月に昨年のオープンから1周年を迎えたHAY TOKYOで、チーフマネージャーを務める木村洋一氏に取材をおこなった。

デンマークのインテリアプロダクトブランドが考える「デザインセンシティブとは何か?」、日本市場で新しい価値を創造している理由に迫り、さらにそこから見える、HAY TOKYOが目指す“ビジネスや売場に対する考え方”について紹介していきたい。

HAY TOKYO / ヘイトーキョー
https://gyre-omotesando.com/shopsandrestaurants/hay-tokyo

東京らしく新たに編集した国内初のショップ。 200坪を超える広さは、世界最大級規模での展開となり、リビングやダイニング、オフィスなどで心地よく過ごすための家具や照明をはじめ、空間を彩るキッチンウェアやインテリアアクセサリー、ギフト向けのデコレーションアイテムやステーショナリーなど、用途に合わせて選べる幅広いラインナップを展開している。 

日常にデザインを添える創業者の想い

HAYの根底にある思想は、どのような背景から生まれたのでしょうか?

木村氏コメントHAYが生まれたデンマークという国は、ハンス J. ウェグナーやボーエ・モーエンセン、アルネ・ヤコブセンなど、20世紀を代表する家具の巨匠を多く排出しています。

そのデンマークの巨匠が登場をした戦後の間もない頃に作られていた家具は、戦争から帰ってきた人たちにとって“日常的に使って貰うためのシンプルで機能的な暮らし”に寄り添った物でした。

しかし、それから60年以上の月日が流れた現在、デンマーク国内の物価の上昇や、家具職人の人件費高騰などの影響を受け、当初のコンセプトとして掲げられていたような“日常的に使って貰うための家具”から、“世界的なミニマルデザインを代表する家具”という地位を確立した今では、一種のコレクターズアイテムのようになってしまっているところがあります。

HAY TOKYOのチーフマネージャーを務める木村洋一氏。

木村氏コメントHAYの創業者であるロルフ・ヘイとパートナーのメッテ・ヘイは、デンマークの家具に対する歴史背景を基に、「日常に取り入れられる家具を作るにはどうしたらいいのか?」という観点からブランドを立ち上げました。

生産国をデンマークだけに絞らず、トルコやラトビアなど他の国でも家具を生産することでコストを抑えながら、すでに世界的に活躍しているデザイナーや将来有望なデザイナーと共に、妥協の無い商品開発を行なっています。

また、ロルフ・ヘイの男性らしいデザインコンシャスな考え方と、女性的でスタイリストのような視点のメッテ・ヘイがブランディングを行うショップは、正に二人の想いが現れた“日常を演出する心地よい空間”です 。

デザインと価格を両立させる、ミドルマーケットに向けたコンセプト

HAYが日本に進出した経緯を教えて下さい。

− 木村氏コメント:これまでに世界的なインテリアプロダクトブランドとして確立されてきたHAYは、日本やアジア全体でもポテンシャルが高く、既に進出する地盤は出来上がっていました。

日本の家具市場は、最高の素材と技術で作っている高価格帯のモノと、安価な価格帯が魅力ではあるものの、デザインや品質では少し劣っているモノ、このどちらかに偏っていることが多いのでは無いかと私たちは感じています。

中間となる金額面を抑えながら、デザインにも優れた、いわゆるミドルマーケットという視点では、しっかりニーズをカバーしきれているとは言えないのでは無いでしょうか。

世界最大級の広さを誇るHAY TOKYOの店内には、デザイン性に優れた家具やインテリア雑貨が並ぶ。

− 木村氏コメント:その点、HAYはミドルマーケットを主軸にしているのでブレがなく、家具やインテリア小物に至るまで、きちんとデザインも追求しているからこそ、洗練された商品構成でありながら、輸送コストを抑える為に梱包をフラットパックにしたり、スタッキング可能な仕様となるような工夫を行っています。

このようなバランス感覚が、私自身も含め“ライフスタイルに関わるモノ好き”から共感を得て、世界的に受け入れられているということもあり、日本国内の多くの方にも、HAYのある豊かな暮らしを知って頂こうと、日本にショップを構えるにことにしました 。

北欧らしいカラフルなデザインのインテリア雑貨など様々なアイテムが揃う

アジア圏での商品供給を充実させる物流網の存在

日本のミドルマーケットに対して、どのような戦略が重要とお考えですか?

− 木村氏コメント:ミドルマーケットに限った話ではないのですが、HAYが他のヨーロッパブランドと比べて、日本を含めたアジア全体で高い評価を得ている理由のひとつに、物流網の存在があります。

通常、ヨーロッパブランドの生産拠点というのは西欧や東欧にある為、日本や中国といったアジア圏へ商品を供給する場合、平均6ヶ月程度のリードタイムを要します。しかしHAYでは中国にも生産と物流拠点を設けることで、仮にアジア圏のショップに在庫が無かったとしても、商品によっては最短1ヶ月半でお客様の元へ届ける事が可能なんです。

物流の仕組みは、ビジネスの観点から非常に重要な施策です。サービスに対して細やかで手厚いフォローを必要とする日本市場では、他のヨーロッパブランドとの差別化が図れ、さらに価格とリードタイムの優位性も保つことが出来ます。

個性を引き立たせる空間演出

満を持しての日本進出だったかと思いますが、だからこそ他のHAY STOREと違う魅力について、ぜひ教えて下さい。

− 木村氏コメント:多くのHAYのショップには、どの店舗にも大きな窓があり、その窓から差し込む明るく柔らかな光が重要な空間演出となっています。

最初の構想では、HAY TOKYOも他国と同様の空間演出で展開したいと考えていましたが、あえて“東京らしさ”というものを取り入れることにしたんです。

HAY TOKYOが各国のショップと大きく異なる点は、自然光が差し込む窓がひとつしかない地下にショップを構えて、大都市ならではの無機質な世界観を表すような、コンクリートが剥き出しになったインダストリアルな空間演出になっています。

各地のHAY STOREとは異なり、地下に店舗を構えるHAY TOKYOならではの“東京らしさ”が散りばめられた空間演出も見どころのひとつだ。

− 木村氏コメント:随所に“東京らしさ”を散りばめたHAY TOKYOは、各国のHAY STOREには無い魅力を感じて頂ける場所でもあります。

今までにはなかったスタイルのHAYだからこそ、面白味があり個性が際立つので、他の国のHAY STOREへ行ったことがある方にとっても、心躍るような世界観になっていたらと思います。

コラボレーション企画 WITH HAYとは?

広い店内の中で、特に“東京らしさ”を伝える売場や商品はありますか?

− 木村氏コメント: 200坪という世界最大級のHAY STOREという利点を活かし、HAYに共鳴するデザイナーやアーティスト、クリエイターなど様々な方とコラボレーションをした、WITH HAYという企画を設けました。

そのひとつがカフェなのですが、HAY STOREとしては世界初となる“HAY Cafe TOKYO by Frederik Bille Brahe”です。

HAYの創業者であるロルフ・ヘイとパートナーのメッテ・ヘイが通っている“カフェ・アトリエ・セプテンバー(Café Atelier September)”のオーナーシェフであるフレデリック・ビル・ブラーエ氏によるメニューを提供しています。

【HAY Cafe TOKYO by Frederik Bille Brahe】
コペンハーゲンを代表するカフェ、Café Atelier Septemberでヘイ夫妻が愛するメニューとFUGLEN COFFEE ROASTERSのノルディックスタイルのコーヒーが東京で楽しめる。

− 木村氏コメント:その他にも、HAY TOKYOの店内に合わせて、「叢 – Qusamura」の店主である小田康平氏に集めていただいた植物や、ブックディレクターのBACH、幅允孝氏による特別なテーマを持たせた編集型の本棚で書籍を展開しています。

【Qusamura with HAY】
個体の特徴を引き出す器と合わせて、自然のオブジェとなるような存在感のある美しい植物。
【BACH with HAY“Instant Book Kiosk”】
ブックディレクターの幅允孝氏自身が、Instagramの中で取り上げた書籍を中心に構成された本棚。

− 木村氏コメント:また、カリフォルニアのホームサウンドシステムブランド「Sonos」の「Sonos One」というスマートスピーカーは、場所を選ばずに最高の音を出してくれるので、店内の至る所に設置しています。

【Sonos】
豊かなサウンドを提供し、より良いオーディオ体験で暮らしを豊かにする事を目指している。

ブランディングや商品の特性を伝える売場作り

日本上陸から1年が経ちましたが、エンドユーザーの反応をどう感じていますか?

− 木村氏コメント:HAYの商品を一堂に会して見られる場所というものが、これまで日本にはありませんでした。オープンから1年が経ち、お蔭様で顧客様だけでなく、BtoBの商談場所としても機能しており、多くの方々にHAYの魅力をお伝えできる場になっているのでは、と思っております。

例えば、HAYを代表的するチェアでもあるABOUT A CHAIR(アバウト ア チェア)は、サブカスタムが出来る仕様となっているので、HAY TOKYOではしっかりとそれを説明出来るような売場を作っています。

座部と脚部の組み合わせでサブカスタムが可能な、ABOUT A CHAIR(アバウト ア チェア)
HAYの特徴を活かし、世界観を伝えるディスプレイやコーディネートは、日常を彩るインテリアライフスタイルの参考にもなる

− 木村氏コメント:また、卸先様はもちろんですが、プロのスタイリストの方にご来店頂くことも多いので、世界観をお伝えできるようなコーディネートを心掛けています。HAYの特徴を活かした提案などをご覧いただいて、実感いただけると嬉しいです。

現場の声が売場を変えていく仕組み

空間づくりをされる際に、意識している事はありますか?

− 木村氏コメント:海外に在籍しているVMDとは、多くのコミュニケーションを交わすように心掛けています。

インターナショナルなブランドの場合、世界各国で統一したディスプレイを展開している事が多い気がしますが、HAY TOKYOではショップスタッフが考えたフロアプランを基に、海外のVMDと売場の作り方を決めています。

HAY TOKYOにはカフェが併設しているので、毎日ご来店くださるお客様もいらっしゃいます。そういったお客様にも売場にいつも新鮮さを感じてもらえるよう、店内のディスプレイやレイアウトの変更時期は、計画性も大切にしておりますが、メンバーの気付きや肌感も重要視しています。店舗に毎日立っているメンバーの声を大切にし、現場から発信が出来る“ボトムアップ型”の売場作りを行っています。

現場でお客様と顔を合わせ、対話するスタッフの気付きや感覚を育て、“ボトムアップ型”の売場作りを心掛けていると語る木村氏

− 木村氏コメント:これは私の個人的な経験談にはなりますが、以前アパレルの店舗で働いていたことがあり、その頃に学んだ事として、毎日同じディスプレイよりも、その時々で違うディスプレイに変わった方が、より魅力のある売場になると思っています。

HAY TOKYOはアパレルショップではありませんが、現場で働くメンバー自身がその売場に飽きているような状態だと、何度もご来店くださっているお客様も、同じように感じられているかもしれません。

そういったところに気付くことのできる感覚を持ったメンバーを育てていくこと、これはとても大切な事だと思っています。

いつでも簡単に動かせる什器の利点

HAY TOKYOの売場作りに関して、もう少し詳しく聞かせて下さい

− 木村氏コメント:HAY TOKYOの店舗デザインは、スキーマ建築計画の代表を務める長坂常氏へ依頼しました。

空間設計を通してHAY TOKYOの構築を考えて頂いたのですが、変化し続ける空間演出を実現する為、スキーマ建築計画で積極的に取り組まれている、インターフェイスというシステムを採用し、豊かなアクティビティを生み出しています。

具体的には、レイアウトの変更を行う際、家具を動かすとなると、周辺すべてのモノを動かす必要が出てきます。それならソファーやテーブルなどの家具を移動すると同時に、什器も一緒に移動し、ディスプレイだけではなく、店内全体の見え方を変えてしまおうという発想です。

家具や什器だけでなく、空間を区切る壁も可動式にすることで、様々な切り口の売場作りが実現可能となっている

− 木村氏コメント:什器も一緒に移動可能な仕様にするというのは、オープン時からのHAY TOKYOの重要なファクターのひとつとなっています。

ショップにある什器はもちろん、レジを設置してあるカウンターごとハンドリフトを使って動かせたり、壁も単管パイプを使って自由自在に付け外しが出来るので、いつでも簡単に様々な切り口の売場作りが実現可能となっています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

現場ファーストのブランディング

当初は1年間の期間限定としてオープンをしたHAY TOKYOだが、多くの人々からの指示を得て、現在も表参道で2年目のショップ運営を行なっている。今回取材に答えてくれたチーフマネージャーの木村洋一氏は、今後の課題のひとつとして、まだHAYを知らない方たちへの認知にも力を入れていきたいという展望を聞かせてくれた。

セレクトショップにとって、その他の人気のあるショップやブランドは競合でもあるが、見習うべき点や吸収すべき点を多く持った好敵手であり、学ぶべき相手でもあることを忘れてはいけない。

店舗の規模やジャンル、地域が違えば異なる点も多くあるが、その中から何を見つけ、何を学び、どう吸収するかが、ショップの成長にとって大切なのだ。

例えばHAYのように、“ミドルマーケット”という新たな市場を見つけて、個性を持つ魅力的なショップを作るということは、容易に真似を出来る事ではない。

しかし、顧客や取引先が感じている事に気付ける環境や人を育てることは、セレクトショップに限らず、ビジネスを行う上で必要不可欠なことだろう。

会社やショップによってコミュニケーションの取り方は違うかもしれないが、顧客や取引先との接点が近い現場の声をしっかりとすくい上げ、それらを実現させる仕組みを作ることで、初めてマーケットインのセレクトショップが出来上がる。

単なるビジョンとしてではなく、現場で働く人間が“わたしたちはお客様や取引先に寄り添っている”と感じられない限り、その想いが顧客や取引先に届くことはない。現場ファーストという視点で物事を考えてみることは、ブランディングの観点から戦略や戦術を作る際にきっと役立つはずだ。

MMDではワークメディアという独自の立ち位置から、これからのHAY TOKYOのブランディング戦略を含め、さらなる日本での活躍を期待し、注目し続けていきたいと思う。