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VMDを活用した、ニコアンドのBtoBビジネス

ファッションという枠を超えた「スタイルエディトリアルブランド」という考え方

昨今、企業の事業内容を説明する際にインテリア業界、ファッション業界、食品業界など、“業界”という括りで分けることが難しくなってきていると感じる。

一つの業界に精通しているだけではなく、業界という枠にとらわれず活動の幅を広げることで成長を遂げている企業が増えている。

今回MMDは、アパレルブランドLOWRYS FARM(ローリーズファーム)、GLOBAL WORK(グローバルワーク)、スタイルエディトリアルブランドniko and …(ニコアンド)などを手がける株式会社アダストリアの、BtoB向けの住空間インテリア・店舗空間のプロデュース事業に注目し、取材を行った。

なぜアパレルショップを主軸に事業展開をする同企業がBtoB向けのプロデュース事業を始めたのか。ファッションという枠を超え、時代とともに変化し成長し続ける株式会社アダストリアの理念には、何があるのか。

ニコアンド営業部法人担当の好村有平氏に話を伺った。

そこには、セレクトショップの“これからの売り場づくり”や“新たな取り組み”にも通じる「スタイルエディトリアルブランド」という考え方があった。

株式会社アダストリア
株式会社アダストリア(代表取締役会長兼社長 福田三千男)は、LOWRYS FARM(ローリーズファーム)、GLOBAL WORK(グローバルワーク)、niko and …(ニコアンド)など20を超えるブランドを国内外で約1,400店舗展開するカジュアルファッション専門店チェーン。ファッションと人生を楽しみながら、たくさんのワクワクを世界に届けたいという思いを込め、「Play fashion!」をコーポレートスローガンに掲げている。

ライフスタイルブランドから「スタイルエディトリアルブランド」へ

まずは、ニコアンドのこれまでの歩みについて教えてください

− 好村氏コメント: niko and …(ニコアンド)は、アパレルと雑貨を取り扱う「ライフスタイルブランド」として誕生しました。その頃、「ライフスタイル」という言葉が世の中でフューチャーされるようになり、ライフスタイルを提案できるブランドとしてniko and …(ニコアンド)は時代と共に成長していきました。

そして今、ニコアンドは、顧客をはじめ店舗スタッフやお取引先様などニコアンドに関わる全ての方ひとりひとりに“にあう”ライフスタイルの編集をする「スタイルエディトリアルブランド」を目指しています。

niko    and …(ニコアンド)  https://www.nikoand.jp
niko and …は、アパレルや雑貨、家具、飲食を展開する“style editorial brand(スタイルエディトリアルブランド)”。実用性だけでなく、どこかユーモアを感じさせるアイテムをラインナップし意外な驚きと発見に“であう”、やがて自分のライフスタイルに“にあう”というメッセージのもと、20〜30代の男女に向けて全国約140店舗を展開している。

「スタイルエディトリアルブランド」とは?

− 好村氏コメント: 今は、たくさんの選択肢から自由に「自分らしさ」を選べる時代です。衣食住すべてのライフスタイルのシーンにおいて、ニコアンドに関わる全ての方の感性と創造的な暮らし(スタイル)に彩りと「ワクワク」する価値を編集(エディトリアル)し、提供したいと考えています。

ブランドの世界観を“店舗の外”で表現できるBtoBビジネス

BtoB向けの住空間インテリア・店舗空間のプロデュース事業を始めたきっかけを教えてください

− 好村氏コメント:ニコアンドが提唱する「スタイルエディトリアルブランド」を実現するために、ファッションだけにとどまらず、オリジナル家具ブランド「niko and …FURNITURE&SUPPLY(ニコアンド ファニチャーアンドサプライ)」を2016年に発表し、その後2年間ニコアンドの店舗内で販売をしてきました。

しかし、店舗の坪数には限りがあるため、niko and …F&Sをフルラインナップで展開することができず、ライフスタイルのすべてのシーンを提案することが難しいという問題に直面したんです。

そこでスタートしたのが、店舗の外でニコアンドの世界観を表現するBtoB向けの取り組みです。ディベロッパーと組んでマンションを造ったり、モデルルームを作ったり、空間まるごとプロデュースをすることにより、店舗内では表現しきれなかった衣食住すべてのシーンを編集・提案することが可能になりました 。

“空間まるごと”のプロデュースとは?

− 好村氏コメント:床壁天井から、間取り計画のディレクション、家具・雑貨のスタイリングまで全て行います。特にスタイリングは、ニコアンドの店舗編集で培ったVMD力を活かした提案を行っています。

ニコアンドの圧倒的なVMD力のひみつ

ニコアンドのVMD力について詳しく教えてください

− 好村氏コメント: 旗艦店の「niko and …TOKYO」では、お客様にいつもワクワクする時間を過ごしてもらえるよう“雑誌のように編集し、特集と連載を持つお店”をコンセプトに、45日毎に特集を組み、特集毎に商品企画をし、立て込みをし、VMDのチェンジを行っています。

そうすると、おのずと経験値もどんどん上がっていき、アイデアも出やすくなっていきます。このようにして培ったVMD力を、BtoB事業でも発揮しています。

BtoB事業の事例を拝見すると、とても細かい部分まで丁寧に作り込まれている印象を受けました

− 好村氏コメント:ニコアンドというブランドの世界観を出す肝は、雑貨などの細部にあると考えています。ニコアンドのフィルターを通して世界中から集めてきたモノと、店舗で培ってきたVMD力とがあって、初めてニコアンドの世界観が表現されます。

クライアント様ごとに数万点の商品からピックアップして細部まで作ります。
これは、非常に大変な作業ではあるのですが、普段45日毎に売り場編集をしているVMDチームですので、スピーディーに作り上げることができます。

店舗のVMDとモデルルームのVMDの違いはありますか?

− 好村氏コメント:店舗では、商品を綺麗に飾って“商品が魅力的”に見えることが重要ですが、モデルルームではいち商品ではなく“空間全体を魅力的”に見せる必要があります。

また、店舗だと天井が高いので引き写真を撮れますが、モデルルームでは引き写真を撮ることが難しくなります。そのため、写真映えの視点から照明の位置を変えたりスタイリングを変えたりしますが、それだけではなく、実際に来場された見学者の視点からも魅力的に映るスタイリングも必要になってきます。

さらに、ご依頼ごとに間取りも飾れるものも違うので、ある程度「型」のある店舗のVMDとは違った“現場での判断”が多くあると感じています。

ニコアンドとの協業でクライアントが期待すること

住空間インテリア・店舗空間のプロデュースの具体的な流れについて聞かせてください

− 好村氏コメント:ニコアンドは全国展開しているブランドですので、ご依頼を頂いたらご来店して頂いて、実際に内装やモノの雰囲気、ニコアンドらしいユーモアを見て判断して頂いています。2019年に初めてBtoB事業で取り組んだマンションのモデルルームが完成しプレスリリースを出したところ、約200媒体に掲載して頂き、そこから依頼や問い合わせが急増しています。

実際に店舗を見て、ニコアンドと組みたいとおっしゃって頂いたら、クライアントである住宅メーカーやディベロッパーの意向を最大限生かす空間プロデュースを行っています。ニコアンドが手がけたからといってブランドのゴリ押しはしません。ブランドのゴリ押しをして、モデルルームに見学に来たお客様に「ニコアンドのプロモーションじゃん!」と思われては、意味がありません。

ニコアンドのVMD力を活用して世界観を出しつつも、お客様自身のくらしを想像して頂けるような、クライアントのコンセプトに沿った空間を作ることを大切にしています。

ブランドの世界観をベースに理想の空間が作れることが、ニコアンドと組むメリットですね

− 好村氏コメント:インテリアショップと組んでモデルルームを作るという手法は昔からありますが、価格帯やスタイルが固いものが多いように思うんです。

高級感があるものをきれいに並べるのもいいですが、ニコアンドであれば、ユーモアのある雑貨で遊びを持たせることで“カジュアルに楽しい空間”という、よりリアルな生活を表現できるのではないでしょうか。実際の生活に根付いたかっこよさを表現できるのはニコアンドの強みだと思っています。

さらに私たちは、空間をプロデュースするだけにとどまらず、プロデュースした空間のプロモーションも行います。

プロデュースした空間のプロモーションとは?

− 好村氏コメント:PV数の多いニコアンドのブランドサイトで、プロデュースした空間のニュースを掲載したり、ニコアンドからプレスリリースを出したりしています。 クライアントから出す“新物件”のプレスリリースだと、クライアントが属する業界のニュースになりますが、ニコアンドから出すプレスリリースだと、“新物件”がファッションのニュースとして取り上げられます。

そうすると、不動産に興味のある層だけでなく、元々のニコアンドのターゲットである20代や30代のお客様にも告知の幅を広げることが可能です。 実際に来場者アンケートでも、ニコアンドのニュースを見てきたというお客様が一定数いらっしゃいます。

− 好村氏コメント: 違う角度からアプローチをすることで集客の間口が広がるとともに、他のモデルルームとの差別化にも繋がるのではないでしょうか。

また、ニコアンドのブランドサイトを媒体として活用した記事広告を出すこともできます。例えば、住宅メーカーとニコアンドの対談形式で記事を出したら、住宅メーカーからの視点で機能性や構造や安全性について詳しく紹介すると同時に、ニコアンドからの視点でデザインやブランディングなどの魅力も伝えることができます。

BtoBビジネスを始めたことで、ニコアンドが得られた相乗効果とは?

法人向けサービスを始めたことで、何か変化はありましたか?

− 好村氏コメント:ニコアンドは全国展開をしていることやTVCMの放送もあり、ファッションブランドとしての認知・知名度はありますが、インテリア業界や住宅業界ではあまり認知されていませんでした。

しかし、BtoB向けの住空間インテリア・店舗空間のプロデュース事業を始めたことでニコアンドの各業界での認知が増えました。

そして、プロデュースをした空間のお客様やモデルルームの見学者がニコアンドの家具や雑貨を知ることで「ニコアンドは家具もあるの?」「引っ越したらニコアンドの家具を買おう」など、プロデュース事例の増加とともに、ニコアンドの店舗への来店動機や新規顧客の増加へ繋がりつつあると感じています。また、商品開発においても、気づきがありました。

商品開発においての「気づき」とは?

− 好村氏コメント:衣食住すべてのシーンを編集・提案する「スタイルエディトリアルブランド」を実現するために法人向けサービスを展開したはずが、実際にスタートしてみると今ある商品では衣食住全てを網羅して提案できる商品が足りないことに気づいたんです。店舗では売り場にも限りがあり、大きく品揃えができないためMDの幅がBtoBをするのには少なかったんです。

ライフスタイルを提案しているお店なのに、実際に生活をするには家の中全てをコーディネートするために必要な商品が足りないということに、気付いてはいましたが、開発できていませんでした。今は、より多くのスタイルの提案ができるようにBtoB向け商品の開発を検討しています。

インダストリアル雰囲気で男性に人気のcraftsmanシリーズのソファとリビングテーブル

具体的には、どのような商品を開発していますか?

− 好村氏コメント:大きいサイズのもの、高単価なもの、バイオーダーで作れるものを考えています。現在、家具のシリーズは「リビングテリトリーシリーズ」「オークシリーズ」「craftsmanシリーズ」「Noisetteシリーズ」の大きく分けて4シリーズがありますが、ダイニングテーブルは大きくても150cm位のサイズしかないので、広い住宅にも対応できるよう大きいサイズを増やしたいと考えています。

手頃な価格帯で若年層に人気のリビングテリトリーシリーズのソファ
上質な風合いがニューファミリー、40・50代にも人気のオークシリーズ(2020年2月にリニューアル) のリビングテーブル

− 好村氏コメント:また、BtoB向け商品の開発をする時の考え方としては、ブランディングを優先してひとつの商品に着目するのではなく、「ベッドルームを作ろう」(空間)から始まり、ニコアンドらしいベッド(商品)はどんなものだろうか?それに合うサイドテーブルは?というように、空間を意識した視点も加えて考えています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ビジネスチャンスは「枠」を取り払うことで訪れる

株式会社アダストリアは、過去4回のビジネスモデルチェンジをしている。メンズカジュアルへの進出に始まり、ジーンズカジュアルショップのチェーン化、次いでストアブランドの育成とOEM/ODM型ファッションカジュアルチェーン展開、そして自ら企画生産を手がける垂直統合に挑戦。時代とともに様々な枠を超え、変化し成長を続けている。

好村有平氏の話からも、ファッションという枠にとどまらず、店舗という枠をはみ出したことにより、さらにニコアンドらしさが洗練されて成長が加速していく様子が伺えた。

ニコアンドのブランドサイトでは、VMDの考え方やインテリアコーディネートについて詳しく記載された「ニコアンドの作り方」「インテリアの教科書。」という特集ページを作っている。こちらも非常に興味深い内容だ。

MMDの取材では、一つの業界に精通しているだけではなく、業界という枠にとらわれず活動の幅を広げることで成長を遂げている企業を多く取り上げてきた。

セレクトショップにおいても、枠にとらわれず、視点を変え、フィールドを変え、挑戦していくことで“これからの売り場づくり”や“新たな取り組み”が見えてくるかもしれない。