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未完成だからこそ生まれる商品価値

「自分が欲しいものを作る」素直でシンプルなVOIRYのものづくり

変化が著しい現代において、“売れる商品”はどうやって生まれるのだろうか? 斬新なアイデア、ずば抜けたセンス、ハイパフォーマンス……もちろんそれらの要素も必要かもしれないが、完成度の高い商品=売れる商品とは限らないのではないだろうか。

肩の力を抜いて周囲を見渡せば、意外と身近なところにマスターピースが生まれる種を見つけることができるかもしれない。

MMD取材班は、オリジナル商品の開発・販売を行う「VOIRY(ヴォイリー)」が運営する「VOIRY STORE(ヴォイリー ストア)」を訪問した。

店舗はJR山手線「目黒駅」、東急東横線「祐天寺駅」のちょうど中間にあたる位置にあり、決してアクセス抜群とは言えない立地だ。それでも、ありそうでなかったシンプルかつユニークな商品を求めて、地方から足を運ぶバイヤーや商談に訪れる取引先は多いという。

代表の戸塚克彦氏にインタビューを行い、VOIRYの商品がなぜそれほど人を惹きつけ、人気作を生み出しているのか、その理由を探った。

ターゲットは「自分と似ている人」

VOIRY」を立ち上げた経緯を教えてください。

− 戸塚氏コメント: もともと古着が好きで、以前勤めていた会社を辞めた当初は古着屋をやろうと考えていました。でも古着だけでは競合がたくさんいるので、自分たちで古着っぽい雑貨を作って、それも商品として一緒に売っていこうと考えたんです。

“古着っぽいもの”って何だろう?と考えたときに、まず思いついたのがエプロンですね。洗いざらしたような、くったりした風合いで古着っぽさを表現しました。

2014年に開業して、現在はエプロンを看板商品としてアパレルやバッグ、雑貨などのプロダクト開発・販売と、ショップとオンラインではヴィンテージのアパレルや雑貨も取り扱っています。

VOIRY(ヴォイリー)
voiry.tokyo
古着風のデザインを意識したアパレルやエプロン、トートバッグ、長靴など、ありそうでなかったオリジナル雑貨の開発・販売を行うメーカー。卸売業だけでなく、目黒区の閑静な住宅街で、店舗兼ショールーム「VOIRY STORE」を営業中。

どんな方がターゲットなのでしょうか?

− 戸塚氏コメント: ターゲットとして想定しているのは、“自分と似ている人”でしょうか。自分と年代が近くで、「古着が好き」という共通した趣味嗜好を持っている方に手に取ってほしいと思っています。

実際にVOIRYのInstagramをフォローしてくれている人のアカウントを見に行くと、やはり古着やスニーカー、雑貨が好きな人が多いんです。そういうのを見ると、自分の好みを共有できている感じがして嬉しくなりますね。

VOIRY STORE(ヴォイリー ストア)
store.voiry.tokyo
目黒の閑静な住宅街に佇むGENERAL STORE。整然とストックが並べられた店内は、アメリカのガソリンスタンドにある売店、学校の購買部、小さな日用品雑貨店のような雰囲気で、面白い発見を与えてくれる。店舗およびオンラインショップではヴィンテージデニムやミリタリーデッドストックなどの古着や古道具も取り扱っている。

卸先も古着店などが多いのでしょうか?

− 戸塚氏コメント:主な卸先は雑貨店です。エプロンやバッグなどはOEM商品としても展開していて、美容室やカフェから「オリジナル商品として販売したい」と商談が来ることも多いですね。最近はアウトドアブームの影響もあってか、アウトドアっぽいデザインの商品も人気があります。

ラフな展示が商品と消費者の出会いを生む

「VOIRY STORE」をスタートさせたきっかけを教えてください。

− 戸塚氏コメント: 当初は卸売業がメインだったので、店舗を開業する予定はありませんでした。在庫を置いたりショールームとして使えたりする事務所を探していたときに、たまたま今の物件を見つけたんです。もとは骨董品屋だった店舗を居抜きにして売り出していて、内見したときの雰囲気が良かったのですぐに決めました。

最初から店舗として営業しようと思って始めたわけではないのですが、商品が増えて来るにつれてVOIRYのInstagramを見たバイヤーの方々や一般のお客様が足を運んでくれるようになりました。

駅から遠く、少し足を運びづらい場所にあるにもかかわらずわざわざ地方から来てくれる方もいらっしゃいます。開業から5年ほど経ちますが、これからも新しい商品やおもしろい商品を作っていかないといけないなと感じています。

お店のコンセプトや、ディスプレイのこだわりについて聞かせてください。

− 戸塚氏コメント: 棚に商品の在庫をラフに積み上げて、アメリカの売店のような雰囲気を意識しました。展示方法についてお客様からよく「おもしろいね」と言われるのが、エプロンを壁に吊り下げるスタイルです。バッグも同様なんですが、ハンガーにかけてきれいに並べるよりも、こうやってラフに展示する方が売れ行きがいいんです。展示会に出展する際もできるだけ吊り下げる形で並べています。

− 戸塚氏コメント:VOIRY STOREはショールームも兼ねているので、バイヤーの方にはこうした展示方法を実際に見てもらって、どんな風に見えるかを知ってもらえると嬉しいですね。

きっちりとした形で並べていないからこそ、エプロンの購入が目的ではなかった人もなんとなく手に取りたくなる、この感覚はリアルだからこそ味わえるものだと思います。

日常生活や人との関わりの中で生まれる商品のアイデア

オリジナル商品を開発する際、意識していることはありますか?

− 戸塚氏コメント: 商品のデザインは、妻と二人で相談しながら作っています。一番大切にしているのは、“自分が欲しいもの”を作ることですね。

以前は「良い生地が見つかったから」とか、「自分は使わないけどなんとなく」といった理由で商品を作ることもありましたが、そういうものを販売してもあまり評判が良くないということがわかってきたんです。ですから、自分が着る、自分が持つ、ということを前提とした商品を作るようにしています。

商品のアイデアはどんなときに生まれるのでしょうか?

− 戸塚氏コメント: 「こういうものがあったらいいな」と考えるきっかけになる出来事は、日常生活の中でふと訪れて来ることが多いです。

たとえば、マーケットバッグに特化した「Little Brown Store」の第一弾として作ったバッグは、主に農家で使われている果物を入れるビニール袋がモチーフになっています。

たまたま果物を買った際にこの形の袋に入れられて、持ち手を結んで真ん中で持つデザインが面白いなと思って、これをコットンで作ってみようと思いました。他にはない形をおもしろいと思ってくれる方が多く、人気商品の一つになっています。

そういった日常のアイデアを商品化したアイテムに対し、お客様の反応はどうでしょうか?

− 戸塚氏コメント: 実際に商品化して販売するようになり、驚いたことがありました。僕個人としてこのマーケットバッグは、買い物に行く際に財布とスマートフォンだけ入れて持ち歩くようなシーンをイメージしていたんです。

でも、購入された方はこのマーケットバッグにプレゼントを詰めてリユース可能なラッピングとしてバッグごと渡したり、別注の依頼をいただいたホテルではアメニティを詰めてバッグごと持ち帰れるようにしたりと、自分が想定していたのとは違う用途で使ってくださっていたことです。

取引先やお客様から新しい使い方のアイデアを教えてもらっているなと感じましたね。

他に日常生活の中から生まれた商品があるんでしょうか?

− 戸塚氏コメント: 日常着やワークウェアとしても使える「DOCTOR PANTS」ですね。現在は定番商品としてカラー展開も増やしていますが、もともとは自分がよく通っていた整体院の指圧師さんが開業祝いとして発注してくれたものなんです。商品として販売したところ、とても評判が良くて定番化しました。

また、人気商品の一つに「RUBBER BOOTS」(ゴム長靴)があるんですが、中国の工場に長靴と定番商品のエプロンの発注をしに行ったところ、工場の人が「ゴムコーティングをしたエプロンも作れるよ」と声をかけてくれて、そのアイデアをもとに「RUBBER APRON」が生まれました。

水を弾くのでガーデニングや洗車の際に使えると考えていたのですが、豊洲市場で働く方が購入してくれたこともあって、商品の可能性をお客様が広げてくれたと感じています。

使う人がカスタマイズできる自由さ=VOIRYらしさ

お客様とのコミュニケーションが、新しいアイデアを生むきっかけになっているんですね。

− 戸塚氏コメント: そうですね。VOIRYの商品は、機能的には少し足りていない部分もあって、言ってしまえば“頼りない”存在なんです。

たとえば、定番商品のエプロンには金具やファスナー、ボタンなどの部品が一切付いていません。もちろん技術的には付けることも可能ですが、そういうものを付ければ付けるほど野暮ったくなるような気がしてしまうので、あえて何も付けていないんです。

シンプルすぎて、機能性の面でいえば少し物足りないと感じる方もいるかもしれない。でも、シンプルだからこそ半分に折って腰巻として使うなど、お客様が自由にアレンジをして使ってくれています。

商品そのままでは未完成で、お客様のアイデアが加わることで完成する。それも含めて“VOIRYらしさ”だと感じてもらって、自由にカスタマイズを楽しんでもらえればと思います。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

多様な可能性を秘めた“未完成品”が消費者にもたらすもの

VOIRYのものづくりは、「自分が欲しいものを作る」「不要なものは加えない」と非常にシンプルだ。戸塚氏は自社の商品を「未完成」と表現したが、余計な機能をそぎ落としているからこそ、「さまざまな可能性を秘めている」と言い換えることもできるのではないだろうか。

未完成の商品を提供することで、消費者には自由にカスタマイズをするという能動的なアクションが生まれる。メーカーが用途を決めつけてしまうよりも、よほどその商品に愛着を持てるようになるだろう。

機能性を追求して洗練された商品ばかりではなく、消費者にある程度使い道を委ねるような余白のある商品も扱うことで、セレクトショップもより多様性のある売り場になっていくのではないだろうか。