INTERVIEW

佐藤利樹氏が考えるこれからの仕事術

プロジェクト全体をデザインするデザイン便利屋

プロダクト、インテリア、グラフィックなど、世の中は “デザイン”で溢れている。わたしたちの周りにある様々な“デザイン”されたモノ、それらを生み出すデザイナーという職業は、ファッションや宝飾、家具やインテリアなどの領域があり、特定の領域で特定のモノを考案することがほとんどだろう。

今回MMDが取材したリッキー氏こと佐藤利樹 (サトウ リキ) 氏は、プロジェクトデザインと称し、デザインを武器に領域を越えてジャンルレスに様々なプロジェクトに関わっている。 なぜバラエティに富んだ案件に携わることが出来るのか、そこにはリッキー氏の仕事哲学が垣間見えた。その信条を紐解けば、これからの働き方のヒントも見えてくるはずだ。

[佐藤利樹 RIKKI SATO] 
プロジェクトデザイナー

1975年東京都生まれ。合同会社Yello代表。「CIBONE」でビジュアル・イベント企画を担当するかたわら、「LIVE FOR SWEETS」を設立しプロダクトブランド「LFS」をスタート。独立後は「第一ホテル」チャペルデザイン、「LYURO 東京清澄 THE SHARE HOTELS」トータルディレクション・グラフィックデザインなどの内装をはじめ、「H&M」ショッパー及びノベルティーデザイン、「蔦屋書店」シーズングラフィック、タオル「コットンヌーボー」などのプロダクツデザインと多岐に渡ったデザイン活動を行う。現在は扇子を中心とした和ブランド「西川庄六商店」のディレクションなど、デザインという視点からジャンルを超越し、様々なプロジェクトに携わっている。

http://yello.co.jp/

クライアントの本質に踏み込んでこそのデザイン

そもそもリッキー氏は何を生業とされているのでしょうか?

− リッキー氏コメント:本来はデザイナーですが、デザインという仕事だけをとっても、プロダクトから内装、パッケージと多岐に渡ります。デザインをツールにブランドのディレクションもしているので、言うならば「デザイン便利屋」といったところでしょうか。クライアントワークの場合、デザインのオーダーは「可愛くしてください」や「売れるようにしてください」が基本。その課題を解決するだけなら、僕より向いているデザイナーはいっぱいいると思います。

僕の考えるデザインとは、クライアントの本質を見つけて、どうしたら世間に伝えられるのかまで踏み込むこと。必ずプロジェクトの本質を理解し、表層だけのデザインはしない。ラベルひとつ変えるにしても、どういう意図で、どういう層にリーチさせたいか、というところからクライアントと相談します。

そうするとクライアントとは時間を掛けた密なやりとりが必要になるので、規模としては小さい案件もあります。仕事を選ぶ時に基準にしていることは、規模の大小ではなく、クライアントと一丸になって取り組めるかどうか。

僕のツールはデザインですが、プロジェクト自体をデザインするのが仕事だと思っているのでプロジェクトデザインと名付けています。デザインする対象を内装やプロダクトなどと限定しておらず、その時々で異なるオーダーに対応しています。だから僕の仕事が広範囲に渡っているように見えるのかもしれません。

戦略からアウトプットまですべてできるのが、リッキー氏の強み

リッキー氏が携わる扇子を中心とした和ブランド「西川庄六商店」のイメージビジュアル

現在携わっているプロジェクトはどんなものがあるのでしょうか?

− リッキー氏コメント:通常はブランディング、コンセプト、キャッチコピー、デザインと担当する人間がわかれますが、それらを全て一貫してできるところが僕のアドバンテージ。「西川庄六商店」は、OEMを専門に受けていた会社がオリジナルブランドを立ち上げる時から一緒に組み、ブランディングも行なっています。ゼロから1を生み出し、立ち上げから4〜5年が経った今は、1を10にしている途中ですね。

最近は、チェーン展開している雑貨店のコンサルタントを始めました。最初の目標は売上を上げることですが、そもそも売上のために売れるものを並べることが、この店の正解なのかという前提があります。様々なことの定義を引き出し、コンセプトやラインナップに筋が通っているのか、厚みをつけられているのか、そういう作業をしています。根底から話をしているので、コンサルティングよりもブランディングに近いかもしれないです。

数字以外の付加価値を提案するのがリッキー氏の役割でしょうか。

− リッキー氏コメント:売ることが目的だったら、お客様は誰でもいいわけです。僕に求められていることはショップに自分の人格を把握させ、どういうお客様に来てもらいたいのかを明確にすること。会社やショップのいいところを見つけ、それにフィットするお客様を設定し、そのお客様にアプローチできる商品はなにか、クライアントとコミュニケーションを取り図りながら提案していきます。

クライアントの困りごとを解決するのが僕の仕事

様々な事業を手がけるようになった経緯を教えてください。

− リッキー氏コメント:クライアントの困りごとを解決していったら、今に至りました。最初は「CIBONE」でバイトをしていた時。内装の仕事の依頼をもらったんですが、僕はデザインの勉強をしていなかった。だけど、幸いにも僕の周りはデザインの勉強をしてきた人たちだらけだったんです。彼らの力を結集させればできるのではないかと思い、その依頼を受けたことがデザインユニット「LIVE FOR SWEETS」の誕生のきっかけとなり、今の仕事につながっています。

リッキー氏が「LIVE FOR SWEETS」として活動していた時代に携わったプロダクトブランド「L.F.S」のアイテムのイメージビジュアル

「LIVE FOR SWEETS」が飛躍のきっかけなんですね。

− リッキー氏コメント:「LIVE FOR SWEETS」では、様々な経験を積むことができました。最初に内装の仕事をしたあと、展示会のブースを手掛けて、次にプロダクトを作るようになって。ウェディングパーティのスタイリングをしたら、そのチャペルのデザインを依頼されたこともあります。同じウエディングの仕事とはいえ、それぞれ全く別の領域なんですけどね。

クライアントが僕をうまく誤解してくれて、誤解が誤解を生んで数珠つなぎでここまできています(笑)。意識的に自分でポジションを変えてきたのではなく、変えさせられた感覚です。

リッキー氏が内装を手掛けた「第一ホテル 東京」のチャペル

長く足並みを揃えられる人と仕事をしたい

つながりで仕事を続けるうえで、大切にしていることはなんでしょうか?

− リッキー氏コメント:ひとつにSNSがあります。でもSNSって伝えられる内容がそれぞれ限定される。Twitterは文字数の制限、Facebookは限定された友達、Instagramは素敵な生活を1枚で表現する。どれも僕の奥行きを伝えるのは難しい。そこで今力を入れているのはYouTube。「どうもリッキーさん」というチャンネルを開設しました。

インテリアではなく、ファッションのことばっかり発信していますけど(笑)。YouTubeを始めて、これまでとは違うところに軸足を持っていけた感じがします。相乗効果でInstagramのフォロワーが増えているし、これが影響力につながっていけばいいですね。

リッキー氏のYouTubeチャンネル「どうもリッキーさん」より

依頼を受けるうえで気を付けていることはありますか?

− リッキー氏コメント:代理店がなんとなく方向性を決めて複数案を提案することってありますよね?そういう時はクライアントとコミュニケーションがとれないから、クライアントの求めていることが分かりづらい。だから、それを探るために仕事が増えて、無駄が多いんですよ。

過去にチームの仕事でも、話し合いの回数が少ないまま進行したプロジェクトもあります。そうなるとそのプロダクトに対するそれぞれの思いは薄まる。だからクライアントと直接話せる状況、チームで問題意識を共有できることが僕には重要で、直接話せないクライアントとの仕事は難しいです。

リッキー氏が考える理想のチームとはなんでしょうか?

− リッキー氏コメント:僕みたいにポンッとディレクターに据えられた場合、早めに成果を出すことが求められます。でもほとんどのプロジェクトが短年ではうまくいかないので、長いスパンで闘っていける人たちと仕事をしたい。5年かけて成長していくビジョンをつくりながら、スタートダッシュを切れるデザインを考えます。

そのためにも信頼できる仕事相手に出会うことが大事。すべてお金に換算するような人はだめで、チームでブランドをよくしていく意識を共有できる人たちがいいですね。チームを重視しているので、お互いリスペクトしないと仕事ができない。そのバランスをとる努力はしています。

お客さんの顔が思い浮かぶ仕事の仕方が重要になる

ライフスタイル業界は、どう変化していくと考えますか?

− リッキー氏コメント:今はグローバルで展開するとか、規模がビジネスを作り出すじゃないですか。売上を上げるため、いっぱいモノを作らなければいけない前提がある。でも見直す時期にきていると思う。仕事って誰を幸せにするのか、を考えることが原点。これからは幸せにしたい人の姿が浮かぶ仕事の仕方が重要になるんじゃないかな。だから自分の仕事の仕方は大正解だと思っています。

グローバルに考えることも大切だけど、今は潮目が変わる時期。これからはお客さんの顔が浮かぶお店の方が強くなっていくと思います。お客さんの顔がわかることで自分たちが何者かがわかるし、自分たちの世の中での価値も見えてくると思います。

自分を固定せず、依頼に合わせて変えていきたい

今後の方向性などあれば教えてください。

− リッキー氏コメント:僕としては20年に渡って依頼してくれる人たちがいたから、今の自分があると考えていて、言われるままに生きてきたらこうなった感じです。
出発点の「みんなが困っていること」を助ける、を大切にするために自分を固定せず、絶えず変わってきたと思っています。これからも根を張らず、依頼に合わせていつでも変わっていきたいですね。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

今はこれからのビジネスを考える原点回帰のとき

リッキー氏は自身のことを根無し草と自嘲気味に話してくれた。しかし「自分を固定せず、絶えず変わり続ける」というスタンスは、消費者が多様化し、アプローチの多角化が必要とされる現代社会に沿っていると考えるべきだろう。

世界が激変する今、従来のグローバリゼーションや数字にとらわれていては取り残されてしまう。盲信していたこれまでのやり方を見直すきっかけとなるワードが、リッキー氏の話には散りばめられていた。

幸せにしたい人の顔を思い浮かべて仕事をする。相手の求めることを想像しながら課題に取り組む。当たり前のことでありながら、結果や数字に囚われて忘れてしまいがちになっているビジネスの原点を、このインタビュー記事を通して思い出してもらえたのではないだろうか。

これまでのMMDのインタビューでも、多くのメーカーやブランド、ショップが、取引先やエンドユーザーとのコミュニケーションを密に図り、変化をうまく取り入れながら進んでいこうしているのだと感じた。

業界が過渡期を迎えている今だからこそ、原点に戻ってみることが重要なのかもしれない。リッキー氏へのインタビューでも語られた「売上のために大量生産するという前提を見直す時期」に、私たちはどう動いていくべきなのだろうか。

伝説のスタイリストと称されるTOOLS代表の近藤昌氏にインタビューを行った、「スタイリスト近藤昌氏のビジネス力の秘密」もぜひご一読いただきたい。