INTERVIEW

阪口竜也氏が考えるSDGsビジネス

企業がつくる「持続可能な社会」

SDGsの17のゴール (開発目標)

サスティナブル(持続可能な)という言葉を聞いてどれだけの人が正しい意味を理解しているだろうか。「持続可能な社会」は時代と共に呼称を変えて世界共通目標として掲げられてきた。2015年9月、国連サミットにて「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択され、193もの国連加盟国が2030年までにSDGsを達成すべく活動している。

SDGs (エスディージーズ) とは

Sustainable Development Goalsの略称。2001年に策定されたミレニアム開発目標 (MDGs) の後継として、2015年9月の国連サミットにて採択された2016年から2030年までの「持続可能な開発目標」のこと。途上国の貧困や飢餓問題をはじめ、環境問題、経済成長やジェンダー平等など世界的な課題解決へ向けた17のゴール (目標) と169のターゲットから構成されている。

今回MMD取材班は、SDGsにいち早く着目し「SDGsビジネス」を主軸として事業を展開しているフロムファーイースト株式会社の代表取締役 阪口竜也 (サカグチ タツヤ) 氏に取材を行った。

「SDGsビジネスをした方がメリットが大きい」と語る阪口氏。そのメリットとは何か、これからSDGsがどのように小売業界に影響を与えていくことが予想されるのか。今後考えられるSDGsビジネスへのチャンスを探ってみたい。

フロムファーイースト株式会社
https://www.minmira.com/
2003年に美容商材の開発・販売で創業。「みんなでみらいを (minnade miraio) 」を自社ECサイトや国内の大型小売店で販売している。カンボジアの荒地に植林することでコスメの原料をつくる「森の叡智プロジェクト」の立ち上げや、鹿児島県与論島で廃棄していた海水からコスメの原料をつくるなど、商品の製造・消費過程で環境保全や途上国の貧困解決に貢献している。2017年5月に「SDGsビジネスアワード2017大賞」を受賞した他、サスティナブルコスメアワード受賞やパリ開催のCOP21での発表をする。また自治体のSDGsアドバイザリー委員を務める。
ナチュラルコスメ「みんなでみらいを (minnade miraio) 」商品ラインナップ

事業の発展が社会の発展に

SDGsで事業を始めた経緯について聞かせてください。

− 阪口氏コメント:子どもが生まれたことがきっかけです。それまであと残り40年50年だと思っていた自分の考える将来の時間軸が伸びたんです。100年先もこの地球に住めるかを考えた時に、住めないなって。そこで「環境を前提としたビジネスをしたい」という考えが自分の中にできました。

しかし、「環境を良くするための行動を促す」ということは意外に難しいんです。なぜなら多くの企業がこれまで行なっていたエコやサスティナブルというカタチでの環境問題への取り組みは、慈善事業の一環としてのものが多く、ビジネスとしては考えられていないんですよね。

そのため、なかなか広まりにくく世の中に根づきにくいので、僕としては「“行動を促す”のではなく“勝手にエコになっている”というビジネスモデルをつくりたい」と思ったんです。そのシステムをつくるのに適した商品が、フロムファーイーストでは生活消費財である化粧品だと考えました。他にもアイデア次第で様々な可能性があると思います。

阪口氏が手掛ける「森の叡智プロジェクト」

− 阪口氏コメント:例えば2014年から始動している「森の叡智プロジェクト」では、発展途上国であるカンボジアで自社製品の原料をつくっています。伐採が原因で荒地となった場所に、現地に自生しているハーブを植林して、化粧品の原料として収穫しているんです。

植林することで森林保全や貧困削減に貢献できるだけでなく、その行いが製品の原料をつくる。単なる慈善活動でなく、ビジネスを通じて社会問題の解決をするということに意味があります。

カンボジアの現地パートナーと、精油を蒸留するために植物の根をカットする阪口氏

− 阪口氏コメント:カンボジアの大地で環境保全をしながらつくられた商品は、品質の良さはもちろん、その背景がさらに商品の付加価値となります。また現地の人々は「植林して収穫する方が、伐採より儲かる」とわかれば伐採しなくなり森は豊になりますし、商品が売れれば売れるほど彼らの仕事も生まれます。

こうして自然も生産者も豊かになる循環型のプロジェクトが確立しました。しっかりとした背景を持った付加価値のある商品を作ることができ、日本市場で受け入れられている実感があります。

カンボジアの現地パートナーと、植林した木の生育をチェックする阪口氏

ニーズは既に用意されている

事業としてSDGsビジネスを勧める理由を教えてください。

− 阪口氏コメント:理由は3つあります。ひとつはそれが「世界共通目標」だということです。つまり「全世界の共通ニーズ」なんです。これには国も予算を大きく使って認知キャンペーンを行っています。現在、2030年に目標達成するために世界各国が活動していますが、2031年以降もこの概念は変わることなく継続される目標であることは間違いありません。市場規模が大きくなることは明確なビジネスチャンスだと考えます。

次に「企業との共通目標」でもあることです。SDGsの概念は企業でも確実に広まってきています。僕はこのビジネスについての講演をここ数年で何十回と行いました。それだけ各社SDGsビジネスについて興味を持って取り組もうとしているということです。つまり、アイデア次第では大手企業とコンソーシアムをつくってプロジェクト進行ができ、身の丈以上の大きなプロジェクトも進めやすくなります。

様々な企業のセミナーやイベントで登壇する阪口氏

− 阪口氏コメント:最後に「新規事業に繋げやすい」ということです。SDGsは17の目標から成り立っています。これらがそもそもの「社会のニーズ」なので、成功するかどうかわからない事業を新たに始めるより、この17項目のいずれかを解決するための事業を始める方が確実な選択だと思っています。

小売業界でのSDGsの広がり

今後どのようにSDGsが広がっていくと思われますか。

− 阪口氏コメント:近年、売上が落ち込んでいる百貨店や小売店は、今回の新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) <以下コロナ>の拡大で更なる打撃を受けていると思います。SDGsビジネスは今後も右肩上がりで広がりを見せることは間違いありません。コロナの流行以前からSDGsに着目している企業はたくさんいますが、今後さらに多くの企業がSDGsビジネスを通して回復を図るのではないかと思っています。

僕の事業は環境問題解決が中心となっていますが、SDGsの17の項目を見ていただければわかるように、本来SDGsはITの進歩による目標達成・社会問題解決が大きな割合を占めていて、たくさんの可能性が広がっています。例えば、国や地域ごとに開発計画の強化を図って、持続可能な都市や居住空間を実現することもSDGsの目標のひとつです。日本でも地方創生・地域活性化は以前から掲げられている目標ですよね。

− 阪口氏コメント:最近は遠隔地での体験を実感できるロボットの開発も進んでいます。こういった技術を活用して、今後ライフスタイル業界でもバイヤーやエンドユーザーへの新しいコミュニケーションが可能になるのではないでしょうか。

近隣地域外の方に店舗や展示会を見てもらったり、商品を紹介したり。このようなSDGs活動からも、最新技術を取り入れることで今まで不可能だったことが可能となり、新たな販路拡大・顧客の掘り起こしがビジネス自体の拡大に繋がります。

利益の追求とその可能性

これからSDGsビジネスを始める企業に向けて、アドバイスはありますか?

− 阪口氏コメント:まず「CSR (企業の社会的責任) 」とは違うということは知っておくべきことだと思います。CSRは「慈善活動による社会貢献」なのに対し、SDGsは「ビジネスによる社会問題解決」です。共通点としては、ともに消費者や株主、従業員の信頼や好感を得ることにも働きます。

企業が自身のお金を使い慈善活動をすることはいいことですが、SDGsをCSRと同じだと考えているとやればやるほどコストが掛かります。コストばかりを掛ける思考ではなく、利益を追求すること「“コストSDGs”ではなく“プロフィットSDGs”」の考え方が大事です。そしてそれがSDGsだと可能だということが、僕が実際にビジネスを通して感じることです。

先ほどお伝えした「森の叡智プロジェクト」では、根底にSDGsの概念がある商品であることが要となって、カンボジアという国との商談や日本国内での大手小売企業への販路の確保が良好に進みました。規模の経済が働いたことで、生産数が増え商品コストが下がった。また、これは結果的な副産物ですが、僕の場合は途上国とのビジネスであったため、商品コストをより抑えられ、利益率が上がりました。

業界未開拓のブルー・オーシャン

今後どういう企業にチャンスがあると考えますか

− 阪口氏コメント:強いて言えば「チャレンジできる会社」だと思います。そういう意味で中小企業にチャンスがあるのではないでしょうか。もちろん先程も述べたように、大手企業の中でもSDGsに取り組む動きは広まりつつあります。商品の仕入れや売場作りに積極的なショップは以前に増して見るようになりました。

一方で、自身が中心となってSDGsプロジェクトや事業を立ち上げている企業はまだまだ少数に感じます。理由はいくつかありますが、ひとつに大手企業にとっては市場規模がまだまだ小さいということです。なおかつ、規模に対して掛る販管費は大きいので、なかなか踏み出せないというのが現実かと思います。

SDGs達成のためのビジネスは多種多様で、アプローチもさまざまです。いつ、どのタイミングでどんなことを行うのかは会社の状態や規模によっても変わると思いますが、やはり小回りの利く中小企業が先導して取り組むことで、足踏みしている大手企業も協業という形で参入しやすくなる。いち早く「チャレンジできる会社」は今後加速度的にビジネスが広がっていくチャンスがあるのではないでしょうか。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

ライフスタイル業界のSDGs先駆者に

技術の発展や予期せぬ災害により、日々目まぐるしく変化していく社会。企業は新たな社会や人々のライフスタイルの変化に順応してビジネスを遂行していく力が求められている。

コロナの流行により人々の暮らしが大きく変わった今こそ、新たな商品価値やこれからのライフスタイルを提案していくチャンスではないか。そこで今回の取材キーワードである「SDGs」に着目してみてはどうだろう。

今回のコロナショックは、モノが売れづらくなってきている小売業界に、これからの「売れるモノ」の方向性を見せてくれているのではないか。大量生産される手軽で安価な物を使い捨てしていく生活から、生産者や開発ストーリーが見える物に共感し長く使い続ける生活へーー。それはSDGs達成目標とされている「持続可能な社会」でもある。

世界が掲げる17のゴールに、ライフスタイル業界がこれから掘り起こす消費者ニーズが隠れているかもしれない。

「SDGs」の消費者認知は年々拡大しており、今年からは小中学校の教科書がSDGsの概念を基にしたものに改定される。その概念は子どもから大人へ、政府から社会全体へ伝わり、今回のような危機に直面することで、より一層自分ごととして人々の意識に浸透していくであろう。

近い将来、当たり前となるSDGs達成を目指す生活、阪口氏の言葉を借りるのであれば「SDGsライフ」の中で、エンドユーザーにショップとして、メーカーとして選ばれる企業であるために、いち早くこの目線を自分のものとしてほしい。今扱っているアイテム、開発中の商品、取り組んでいるプロジェクトもアイデアひとつでSDGsビジネスへと変わるかもしれない。

2030年まであと10年。国連はこれを「行動の10年 (Decade of Action) 」としている。今後、政治・経済・教育あらゆる場面で私たちの常識として浸透していくであろうSDGsの概念。今なら市場のパイオニアになれるかもしれない。