INTERVIEW,  SHOP

リアル店舗のこれからのカタチ

モノを売らないビジネスモデル

「モノを仕入れ、モノを売る」という小売業のビジネスモデルは年々多様化している。MMDは、新たなビジネスモデルを探るべく「二子玉川 蔦屋家電」に併設されている次世代型ショールーム「蔦屋家電+(プラス) 」を取材した。

「蔦屋家電」は、2015年にオープンした「ライフスタイルを買う家電店」がテーマのショップ。家電に限らず書籍やインテリア、雑貨など、幅広い品揃えが特徴だ。店内にカフェを併設したり、商品を取り入れたライフスタイルのディスプレイがあったり、モノの販売だけでなく“コトの提案”が目を引く売場になっている。

蔦屋家電
https://store.tsite.jp/futakotamagawa/
CCCグループである株式会社蔦屋書店が運営する新しいスタイルの家電店。最先端の技術を駆使した製品からクラシックなデザインの製品まで幅広く取り扱う。家電製品だけでなくインテリアや本、雑貨などの販売も行っており、それらを通して実現するさまざまなライフスタイルの提案をしている。

「蔦屋家電」から新規事業として立ち上げられた「蔦屋家電+」は、「創り手を応援したい」という想いのもと、2019年「二子玉川 蔦屋家電」内に併設された。

ここには常時30以上のプロダクトが展示され、なかには開発中やクラウドファンディング中など、一般的にまだ外で見ることができない最新プロダクトもある。目新しい製品が並ぶこの場所は、モノを販売することが主目的ではなくモノの展示を行なう場、いわばショールームとしての役割を果たしている。

蔦屋家電+ (プラス)
https://store.tsite.jp/tsutayaelectricsplus-futako/
「二子玉川 蔦屋家電」の中にある次世代型ショールーム。最新テクノロジーを駆使した家電をはじめ、日用品、雑貨などジャンルを問わず幅広く展示している。発売前の最新プロダクトやクラウドファンディング商品の取り扱いがあるのも特徴で、それら展示品には実際に触れて体験することができる。

今回話を伺ったのは、株式会社蔦屋家電エンタープライズ商品企画部の木崎大佑氏。未発売のプロダクトも展示されるこの空間は、どんな仕組みで成り立っているのか。

昨今のコロナショックの影響もあり、モノの売買や販売促進が急速にオンライン化する中、実店舗ならではの価値、得られるコトは何か。そこから窺えるセレクトショップの新たな可能性を探っていく。

創り手を応援する場

「蔦屋家電+」について教えてください

− 木崎氏コメント:「蔦屋家電」は小売店として純粋にモノを仕入れ販売しているのに対し、「蔦屋家電+」はモノを展示し体験していただく次世代型ショールームとしての役割を担っています。共通点としては、どちらもライフスタイルにまつわるモノを扱っており、それら商品や製品から叶えられる暮らしの提案、“コトの提案”までを行っています。

商品の販売は行っていないということですか?

− 木崎氏コメント:一般発売されているプロダクトに関しては販売も行いますが、売上は全額出展者に還元していて収益を得ていません。我々は出展者から出展料をいただくことで運営をしていて、展示の目的はモノを売ることではなく、あくまでユーザーの声を拾うことなんです。

来店されたお客様に展示製品への興味関心や、実際に使っていただいた時の感想・意見をヒアリングすると同時に、各プロダクトに設置しているAIカメラからお客様の性別、年代、滞在時間を取得して、それら内容を出展者である企業や創り手へフィードバックしています。

出展側は製品自体のプロモーションはもとより、実際にリーチする層やユーザーの生の声を得て効果測定ができます。さらには、その内容を今後の商品開発に役立てることができるので、未来のプロダクトへのモノづくりにも役立ちます。

− 木崎氏コメント:世の中にはたくさんのアイデアがありますが、実際に生産・流通される製品は限られていますよね。「蔦屋家電+」は、モノを売らずに情報を取得するビジネスモデルで、創り手のモノづくりを応援できる場所にしていきたいんです。

ゆくゆくはこの場所で得た消費者の声をもとに製品が開発されると面白いなと。メディアとしてもマーケティングの場としても、リアルなお店で商品開発が可能だと証明したいですね。

クラウドファンディングとの親和性は高そうですね。

− 木崎氏コメント:相性はいいです。我々CCCグループが運営する「GREEN FUNDING」というクラウドファンディングサイトからのプロダクトもいくつか展示しています。“クラウドファンディング上で話題の製品を体験できる唯一の場所”ということで来店される方も多く、リアルのショップだからこそ可能なコミュニケーションを実感しています。

また資金が少ないスタートアップの方でも、アイデアさえあれば「GREEN FUNDING」出品と「蔦屋家電+」出展を並走させ、資金調達と認知拡大をしながら製品開発を進められるよう環境を整えています。創り手にとって挑戦しやすい場になっているんじゃないでしょうか。

エモーションを与える売場づくり

展示するプロダクトはどのように決めているのでしょうか。

− 木崎氏コメント:経験豊富なキュレーターが独自の目線で製品を選定しています。まだ世に流通していないモノ、ユニークなモノなど、“モノを売る目的から外れた視点”で選んでいるので、ショップのバイヤーというよりその名の通り美術館のキュレーターに近い感覚かもしれません。

売上主体ではなく商品主体での選定は挑戦的ですね。

− 木崎氏コメント:予算ありきの商品選定だと売れているモノに偏りがちですが、我々は“一目見て立ち止まっていただけるプロダクト”にこだわって選定することでお客様にワクワクするエモーションを与えられていると思います。

新たな発見や気づきを提供するという視点だけで商品選定をしているショップはあまりないと思うので、製品はもちろんショップ自体も話題にしてもらえるため、PR効果が高いうえ、結果としてモノを売ることにも貢献できていると思います。

− 木崎氏コメント:お客様の滞在もまるで美術館にいるかのように長いのが特徴です。まだ世に流通していない新しいプロダクト一つひとつを紹介することで、目当て以外の製品もすべて見て回りたいと思えるようなワクワクする売場づくりが成立してるんです。

滞在時間が長い分、コミュニケーションの回数や量が増えるため、情報収集の観点ではプラスになりますし、すべてのプロダクトを見ていただくことで自然と全体の売上が上がります。

− 木崎氏コメント:滞在時間や体験回数などの行動データは常に記録されているので、そのデータをもとに一周年の区切りとして「蔦屋家電+ 大賞」を開催しました。

各賞はお客様の注目を最も集めたプロダクトに贈っています。賞を贈ることが少しでも創り手の糧になると信じて、第2回も盛り上げていきたいです。

2020年の大賞プロダクト:Gatebox。最も注目を集めたプロダクトに賞が贈られる。

売ることに捉われない接客の在り方

「モノを売らない」スタッフは何をモチベーションに接客するのでしょうか?

− 木崎氏コメント:ここでのスタッフのKPIは売上ではなく、“話しかけた数”なんです。目的は創り手に還元する“声”のヒアリングなので、その製品の開発背景や創り手の想いを伝えたり、使い方を説明したりします。

売るために話しかけるのではなく、紹介をしたくて話しかけるので、お互いにストレスなくコミュニケーションが取れますよね。

売るためでないとはいえ、興味を持ったお客様へ商品価値を伝えているわけなので、機会が増えれば増えるほど売上に繋がっているのも事実です。

− 木崎氏コメント:僕は小売不況と言われる時代で長く販売員をしていたこともあって「販売員のための新しいプラットフォームをつくりたい」と思うようになりました。当時、モノが売れない現実に苦しんでいましたが、「蔦屋家電+」のように小売のカタチを少し変えるだけで販売員の働き方は変わると思うんです。

販売員はモノを売るだけでなく、情報収集やストーリーテリング、プロモーションからブランディングまで幅広く携われるようになります。

スタッフとお客様とでコミュニケーションを多く重ねることで創り手を好きになってもらい、そこから得た情報で創り手の商品開発を応援し、実際に商品が流通するという一連のプロセスを叶えるためにも、まだ若いこの事業をこれからも継続させたいと思っています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

リアル店舗が与えるべき新たな価値

「蔦屋家電+」は、“リアル”という店舗の利点を生かした新たな価値を示した。そこから得る消費者の声や反応は、嘘のないデータとして創り手のモノづくりを活性化させ、対価を“出展料”というカタチで売り上げる仕組みは興味深い。

開発・企画段階のプロダクトを試す場を探している企業であれば、「蔦屋家電+」を活用するという選択肢もあるのではないだろうか。

近年、ショールームやギャラリー併設のショプは増えつつあるが、そうでないショップも店舗のいちコーナーやイベント等の企画で本事例を参考にしてみてはどうだろう。

ECサイトの増加、売買のオンライン化が急速に進む中、店舗の可能性を広げる手段の一つとして、小売としての店舗のあり方を少しだけ変えてみることで、何か新しい発見が得られるのではないか。

「エモーショナルな商品選定・売場づくり」の発想は、どんなビジネスモデルであってもセレクトショップを営業する上で重要である。

既に売れているモノばかりを置くのではなく、エンドユーザーを立ち止まらせる商品・売場づくりを意識することによって、店舗のアイデンティティの確立も然り、セレクトショップがトレンドを仕掛けていける糸口になるだろう。

それらはユーザーにとってもセレクトショップを訪れた際の醍醐味となるに違いない。モノ・ヒト・コトーー何を誰がどこでどうやって売るか。小売の課題はいつもそこにある。

モノや売場が変わり、接客が変われば、売上は変わっていくだろう。実店舗を持つ側として、売場や商品・消費者行動・接客、何かひとつを見つめ直すことで、現状の課題や新たな商品の必要性、売場の可能性を発見できるかもしれない。