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セレクトショップとアートの親和性

気軽にアートに触れられる場

アートへの敷居は未だ高い日本。洋服を買うように気軽に作品が買えるアートのセレクトショップ「OVER ALLs STORE (オーバーオールズ ストア) 」が2020年2月、目黒に誕生した。

同店を運営する株式会社OVER ALLs (オーバーオールズ) 代表取締役社長の赤澤岳人 (アカザワ タカト) 氏は、何を目指し、このショップを作ったのか。ギャラリーとの違いはどこにあるのか。出発点から展望までを幅広く訊いた。さらに赤澤氏へのインタビューから、セレクトショップでアートがどのような効果を生み出す可能性があるのかを探っていきたい。

株式会社 OVER ALLs
http://www.overalls.jp/index.html

「楽しんだって、いい」を合言葉に「楽しい国、日本」という作品の完成を目指すアートカンパニー。 社長・赤澤岳人氏と、副社長であり画家の山本勇気氏を中心に、オフィスや店舗をはじめとする壁画やオーダーアートの企画制作、アパレル制作を行う。「OVER ALLs STORE」では、山本氏をはじめとした様々なアーティストの絵画や立体作品、アパレルなどの販売を通じ、ショップもメディアのひとつという位置づけでアートを発信している。

アートショップとギャラリーの違い

クライアントである株式会社ナリス化粧品の工場内にある食堂の壁画

どんな事業を手掛けているか教えてください。

赤澤氏コメント:僕たちの事業の柱はBtoB・BtoC向けの2つあって、BtoB向けは主に壁に絵を描くウォールアート事業です。特にオフィスやショップの中に描くアートの分野では、質・量ともに業界のトップランナーだと自負しています。

例えばオフィスアートでは、ミッションビジョンや企業理念などを浸透させるために、みんなの心をひとつにするようなモノが欲しいと要望を受けてアートを描くのですが、文字やデザインでは伝えにくいものもアートにすることで伝わりやすくなり、企業のインナーブランディングにも繋がっています。

そして、より個人のお客様にもアートを身近に感じ、楽しんでいただきたいとBtoC向けに始めたのが、もう1つの事業の柱となる「OVER ALLs STORE」というアートのセレクトショップです。

ギャラリーという選択肢もありましたが、日本の文化は小売店が広めてきた部分も大きいと感じているので、ショップというカタチでアートのメディアになろうと考えた結果です。

ギャラリーと「OVER ALLs STORE」の違いはなんでしょうか?

− 赤澤氏コメント:いわゆるギャラリーや画廊は、決まった期間で作品を展示する場所貸しがメインになっています。販売もされますが、一番の目的は作家や作品に対しての「いいね!」という共感を集め、宣伝することです。

一方「OVER ALLs STORE」では100万人の「いいね!」より、たとえ10円でも100円でも、お金を払って買ってくれるお客様を作る場を目指しています。

アートは安いものではないので、「いいね!」と思った人が皆、作品を買えるとは限らないんです。「OVER ALLs STORE」では、アートを買いたいと思わせるプロセスを重要視しています。「いいね!」と「買いたい」の差は何なのか、どうすれば人はアートを買いたいと思うのか、それを追求しているのがギャラリーとの違いでしょうか。

買いたくなるアートとはどのようなものなんでしょうか?

− 赤澤氏コメント:僕たちが取り扱うアートは「作品」であると同時に「商品」でもあります。作家は作品で勝負をしているという想いが強く、箱や絵の裏側まで気にする人はあまりいません。でも僕らは、凝った証明書が付いていたり、化粧箱に入っているのかということも、作家への共感や理解を深め、物欲を掻き立てる付加価値=買いたいと思わせるアートに繋がると考えています。

「OVER ALLs STORE」で取り扱っている作品はまさにそういったものです。一枚一枚手書きの証明書をつけたり、箱だけでなくパンフレットを自作したりと、各作家が仕様まで考えて作っています。ただ売るための飾り付けや小手先のテクニックだと思う人もいるかもしれませんが、作家が作った最高の作品をエンドユーザーに届けるため、理解を深めてもらうために必要なことだと思います。

アーティスト森博幸氏のプロレスラーを日本画風に描いた作品のパッケージには、プロレスのチケットを模したラベルが貼られている

− 赤澤氏コメント:覆面アーティストとして有名なバンクシーの話なんですが、作品の一つにダイアナ妃が描かれた10£の偽紙幣があります。彼は自分の作品の真贋証明書に、その偽札を半分にちぎったものを貼って発行してるんです。

お札にはID番号が手書きされていてギャランティカードの役割を果たしつつ、バンクシーらしいウィットさを物語っている。何よりそういう面白い発想に触れることで、「おーっ!」という感動が生まれますよね。

陶芸家アーティスト古賀崇洋氏と共に、作品であるマスク型カップ『頬鎧』を被って

感動や共感を与える仕掛けはセレクトショップが大切にしていることと重なりますね。

− 赤澤氏コメント:作品を購入するということはその作家の同志になるようなものだと思っているので、作家の持つ人柄やストーリーを発信し、知ってもらうことも重要だと思います。

感動や共感が購入者にエモーションを与える仕掛けとなって、さらに作家を理解したり、心象風景と重なることで作品がただのアートではない特別なモノになっていき、所有したいと思うようになるのではないでしょうか。

セレクトショップとアートビジネス

取り扱う作家や作品にはルールがあるのでしょうか。

− 赤澤氏コメント:僕たちが作品を取り扱い始めるときは、作家に必ず「あなたの作品で世界をどうしたいか」を問います。自身の精神的欲求や承認欲求を満たすためだけでなく、「人を幸せにしたい」「作品を買ってもらいたい」そういう思いを持ち、ビジネスとして作品を売ることに高いモチベーションを持っている作家の作品を商品として並べるようにしています。

作家は、自身の世界観とビジネスの兼ね合いが求められるわけですね。

− 赤澤氏コメント:僕たちのショップでは、作家が自分の作品に対して「この作品、動いてますか?」と聞いてくることがよくあります。メーカーが小売店に商品を卸すように、もっとコーナーを広げてほしいとか、作品を入れ替えたいとか、作家自身がお客様の動向に合わせた売場作りを心がけてくれます。僕らも、一人でも多くのお客様に作品を知ってほしいという作家の気持ちを大切にしています。

アートを身近に感じさせるVMD

VMDもギャラリーとの違いを意識されていますか?

− 赤澤氏コメント:アートとデザインの違いは「HOW」と「WOW」だと思うんです。服などのデザインはどうやって着るのかの「HOW」ですが、アートはどうやって使うかなんて発想はしないですよね。「WOW (ワオ!) 」と感じる見た瞬間の面白さや驚き、感動なんです。だからショップの外観はアートを重視しています。

けれど、アートに対しては敷居が高いと感じている人がまだまだ多いので、アートオンリーだと認知度は上がっても、入りにくくなってしまう。ここはあくまでショップなので、ウィンドウディスプレイや外から見えるところにはアートを落とし込んだTシャツも置いてあります。

アートは自分の普段の生活に馴染みがなくても、アートTシャツは着るモノだから自分の生活にもリンクしますよね。そうすることでアートを身近に捉えやすくなるし、アート目的以外でも入りやすいようなVMDを心がけてるんです。

目指すは日本版Arts District

今後の展望についても教えてください。

− 赤澤氏コメント:L.A.にArts District (アーツ・ディストリクト) というエリアがあるんですが、そこで見た光景がこの店を立ち上げたきっかけにもなっています。元々ギャングなどが出入りするような荒れた地域だった場所に、自治体がお金を払ってアーティストを呼び、倉庫や工場にたくさんの壁画を描かせたんです。

壁画を観に来る人が増えるようになると、観光客向けの屋台ができ、それが路面の飲食店や雑貨屋、洋服屋に発展しました。最後にはホテルや安全な地域にしか出店しない有名コーヒーチェーンが進出したことで治安が確保され、行政がアートを通じて街を健全化させるという結果になったんです。

日本でもアートを通じて、廃墟のようになってしまったビルや商業施設をArts Districtのように生まれ変わらせていきたいという想いがあります。

− 赤澤氏コメント:Arts Districtでは周りは壁画だらけの街の中心に、アーツディストリクトセンターみたいなものがあって、たくさんのアーティストがいてアトリエ兼ショップになっていました。

小学校ぐらいの大きさで廊下にまで絵がズラッと並んでいて、その絵のすべてには値札がついている。中には1200ドルと書いた値札に赤字でバツ印をして800ドルと値下げされているものがあったりするんです。絵画の値下げなんて日本ではあまり見かけませんが、彼らにとってはアートも売れなければ値下げするのが当たり前。

そしてそれらのアートを買いに来る人は、高級車に乗り、スーツでビシッと決めた金持ち風の人なんかではなく、ボロボロのSUV車に乗っているような普通の人が、椅子を一脚買うような感覚でアートを買っていくんです。それくらいアートが生活に根付いている。日本人にもそんな感覚を広めていけたらと思います。

アートに親しみのある世界

日本人にアートが浸透するためには何が必要でしょうか?

− 赤澤氏コメント:まずはアートに対する価値観の転換ですね。高級品の価値とはなんなのか。例えば腕時計は時間が分かればいいのに、数百万もする物でも購入する人がいます。それは様々なメディアで価値が示され安心が担保されているから。慎重な国民性の日本人はメディアや他人が保証する価値観を重視しますが、自分の価値観を信じることは苦手なのかもしれません。

自分が信じたものに対してお金を払う、自分自身の声に従って「この絵が好きだから買う」という行動が当たり前になっていけば、日本人のアートへの概念そのものが変わっていくと思います。

アートを広めるショップはあっても、「売る」ことに徹底しているショップはまだ少ないんです。僕たちはショップという媒体を使って日本人のアートに対する価値観や概念を変えていきたい。

同じようなショップが増えていけば、自分の価値観を信じる人が増え、今のままだと30年かかるかも知れないアートに対する価値観の転換が、10年くらいで実現できるんじゃないかな、そんな風に思っています。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

アートがセレクトショップに与える効果

赤澤氏が語ってくれた通り、世界規模で比較すると日本市場は低空飛行ではあるが、少しずつアートに対する意識の変化が感じられる部分もある。一般社団法人アート東京による約2万人を対象とした「日本のアート産業に関する市場調査2019」によると、日本の美術品市場は4年連続で増加しているという。

美術品を購入・保有することによる効果についての意識調査では、「教養の習得」や「日本・他国の文化の認識・理解」といったエデュケーショナルな意見を押さえ、「リラックス・気分転換・ストレスの軽減」とエモーショナルな意見が首位に立っている。これはアート=難しいという概念を壊す、第一歩を進み始めた兆しではないだろうか。

こうした結果から見ても、セレクトショップがアートを取り入れていくことはエンドユーザーのエモーションに働きかける効果がありそうだ。

例えば、これまではオフィスや飲食店からのオファーが多いという赤澤氏らのウォールアート事業は、商品のストーリーや背景を伝えることを大切にしているセレクトショップとの親和性が高いと言えるのではないだろうか。

ショップのブランディングや背景・ストーリーなどを確立させるために言葉やデザインで伝えようとしていたことが、アートになることで伝わりやすくなることもあるかも知れない。アートを取り入れる方法はプロダクトを販売するだけではないという新たなカタチが見えてきた。

アートとセレクトショップの関わりはどのような可能性を秘めているのか。「BRICK&MORTAR (ブリック アンド モルタル) 」を手掛ける村上周 (ムラカミ アマネ) 氏にインタビューを行った「アートが身近に感じられる場所」もぜひ読んでいただきたい。