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地方活性化の新機軸となるモノづくり

アグリ (農業) ×コスメの誕生

工場の屋上から見た、資源豊かな大隅半島の景色

食の宝庫である鹿児島の資源を最大限に活かすべく、農家や自治体と協力しながらモノ作りを行う「ボタニカルファクトリー」。“地産化粧品” “食べ物のような化粧品”という切り口で、天然由来成分100%、アルコール、ケミカルフリーのスキンケア商品の製造を通じ、地方創生への寄与も目指している。

代表の黒木靖之 (クロキ ヤスユキ) 氏に、大隅半島を選んだ理由から今後のセレクトショップと地域産業、さらにエンドユーザーとの関わり方に至るまで話を訊いた。

株式会社ボタニカルファクトリー
http://botanical.co.jp/

亜熱帯気候と温帯気候が混在し、約4,000種もの多様な植物が群生する九州本島最南端の大隅半島にある鹿児島県肝属郡 (きもつきぐん) 南大隅町で、平成25年に閉校になった小学校を活用して、地域の農家から持ち込まれる原料から化粧品までを一貫生産している。「ナチュラルコスメの本質を追求する」商品づくりをモットーに、地産原料を丁寧に加工し、蒸留水、精油、エキスを抽出して、肌にも環境にもやさしいコスメを作る。

新たなビジネスモデルとの出会い

「ボタニカルファクトリー」を立ち上げた経緯を教えてください。

− 黒木氏コメント:私は長らく化粧品業界に携わっており、メンズコスメの輸入でヨーロッパによく出張に行っていた時期もありました。その頃に娘が誕生したのですが、アトピーがひどい時期があり、卵や小麦、米でもアレルギーが出てしまうほどだったんです。

ワセリンを塗っても緩和されず、「今まで化粧品業界で何をやっていたんだろう」と自分自身にショックを受けました。娘のためにも、肌に良く、口に入れても安心な化粧品成分について学びたいと考え、最初に辿り着いたのが、オーストリッチ油 (ダチョウ油) に多く含まれている成分でした。

鹿児島の志布志市にダチョウ牧場があることを知り、その油を使って石けんを作ったら、娘のアトピーの症状が軽くなったんです。そんなことがあって、牧場で販売用のオーストリッチオイルを使った石けんのOEMを請けることになりました。

− 黒木氏コメント:石けん作りを始めるにあたって、以前ヨーロッパでオーガニックコスメ工場を視察していた時に目にした光景を思い出しました。ラベンダーやカモミール畑の横に抽出工場があり、それまで農業と化粧品を両輪で動かす発想がなかった私は目から鱗が落ちる思いを受けたんです。

それに影響を受けて、私も地元の南大隅町の植物を使用し、農業に密着した石けん作りを始めました。日本最大の照葉樹林帯を持ち、自生する約4,000種類の植物の中には化粧品原料にもなる植物も多数含まれています。

植物を使ったコスメ工場だから「ボタニカルファクトリー」と名付けました。それが、アグリ (農業) ×コスメの誕生です。

廃校になった小学校を利用した工場

農家と協業した循環型事業

地元農家で契約栽培しているホーリーバジルの畑

アグリコスメとは具体的にどのような商品なのでしょうか?

− 黒木氏コメント:まずアグリコスメとは、農業を意味する「アグリカルチャー」という英語と、「コスメ」を掛け合わせた造語です。地元農家で契約栽培された「月桃」「レモングラス」「ホーリーバジル」に加え、特産品の「タンカン」「パッションフルーツ」「地蜜 (はちみつ) 」、さらには指宿産「ホーウッド (クスノキ科:芳樟) 」や桜島産の「ツバキオイル」など鹿児島の農産物から、アロマオイル、ハーブウォーター、エキスなどを独自に原料抽出したコスメです。

「ボタニカノン」というブランド名で、食べられる地産原料を使用したスキンケア商品をはじめ、コールドプロセス製法の手作り石けんやバス・トイレタリー関連商品、地産アロマのフレグランスなどを展開しています。

2020年07月末にリニューアルした「ボタニカノン」のコスメライン

地元農家とはどのように協業されているのですか?

− 黒木氏コメント:持続的な植物環境の保護と地域農業への貢献に繋がるよう、契約農家で無農薬栽培をしたり、廃棄処分になる規格外商品も活用しているんです。例えば近隣で無農薬栽培されたパッションフルーツやパイナップルは、熟成が足りないものや、傷などがついて見た目が悪くこれまで廃棄されていたものを買い取りし、芳香蒸留水やエキス抽出を行い化粧品原料として再活用しています。

SDGs視点で見てもいいことですし、ビジネスとしてのコストメリットもある、循環型事業だと思います。農家の方も、今まで廃棄していたものが有効活用され、自分が作った植物からできた化粧品を使って喜んでくれますね。

2020年07月末に期間限定発売されたパッションフルーツやパイナップルを使用したスキンローション

− 黒木氏コメント:開発した製品に合致するハーブを作ってもらうだけでなく、農家から「これを化粧品に使えないか」と、農作物の提案をいただいて、商品ラインナップが増えることもあります。でも化粧品に使える量はたかが知れているので、全ての農家を救えるわけではありません。

ただ、農産物を食品用途以外の付加価値の高い商品にできると農家が知ることで、生産する上での意識も変わっていくだろうし、そこから生産の流れも変わってくると思います。その流れを作る役割を果たしていきたいですね。

アグリコスメの未来のかたち

今後、力を入れていきたい活動があれば教えてください。

− 黒木氏コメント:実は工場のある南大隅町は7,000人弱の人口のうち、半数近くが65歳以上の高齢化の町となっていて、限界集落の地域もあり、ある意味日本の未来の姿です。この地域ではじゃがいもやさつまいもなどを栽培していましたが、重くてかさばるので高齢者が扱うのは負担が大きい上、利益も少ないんですね。

その結果、高齢になった農家が手放した耕作放棄地が、南大隅町には虫食い状に生まれています。そこを再生させるにはどうすればいいのかと考え、ハーブの栽培にたどり着きました。鳥獣や猿害にも強く、栽培に手間がかからないハーブは、化粧品原料という目的だけでなく、高齢化が進む日本の農業環境の中で、少ない労力で育てられる、効率も反収もいい農作物です。

これは日本の高齢化社会における新たな農業の一つの形になりうるのではないでしょうか。いずれは南大隅町だけでなく、全国の耕作放棄地にも様々なハーブを植えたいと思っています。

アグリコスメを通じてどのような未来を描いていますか?

− 黒木氏コメント:昔はおばあちゃんが毎日お味噌汁を作るような感覚で、どくだみやヨモギ、ヘチマを使って、家族が使う数日分の化粧水を手作りしてくれていた時代がありました。手作りなので食品同様長期保存は出来ませんが、自分で選んだ安全な材料を使用して、通常の化粧水の10分の1以下のコストで、自分に合ったフレッシュな化粧水が簡単に作れますよ。

食事って家で自炊もするし、たまに外食もしますよね。化粧水も、家で作ったり、作れないものはショップで買ったり、使い分ければいいと思うんです。昔の人たちがそうしてきたように、自分自身の目を養っていくことで、本当にカラダにいいものが自然と分かってくるのではないでしょうか?それをナチュラルコスメ業界の一般的なライフスタイル、文化にしていきたいんですよね。

もっとたくさんの人々に伝えたくて、ファクトリーや期間限定POP UP SHOPでは手作りコスメのワークショップも開催しています。

黒木氏が直々に講師を務める手作りコスメのワークショップ

注目される「地方」の産業

今後、モノづくりはどのように変化していくと思われますか?

− 黒木氏コメント:コロナで人々の価値観やライフスタイルが大きく変わり始めている今、都市から地方への回帰が加速すると感じています。経済が危機的状況でも地方にはのんびりした時間が流れ、豊かな自然の恵みがあり、モノづくりの本質を追求できる「場」があるんです。

この機会に化粧品だけでなく、あらゆる業種が地方に目を向けるのではないでしょうか。様々な業界のモノ作りをする方々と地方との連携が強化されることを期待したいです。

SDGs視点で考えても、セレクトショップがこのようなアグリコスメを推進していくことは、都会と地方の格差が縮まって、時間・距離・価値・感性においてボーダレスな世界の創造を後押しすると思っています。そして日本のみならず、世界の「僻地」に属した産業に希望が生まれてほしいですね。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

生産者とエンドユーザーのボーダレスな関係

アフターコロナで求められていること。それはまさに黒木氏が語った都会と地方のボーダレスな世界なのではないだろうか。地域に寄り添ったアグリコスメの事業に、これからの商品のモノ作りや商品セレクトのヒントがある。そこには大量消費を是としないSDGsの理念が大きく関わってくるだろう。

今後セレクトショップに求められるのは、取り扱う商品に対して、いかに生産者とエンドユーザーのボーダレスな関係を促すことができるか。日本のエンドユーザーの感性が成熟期に入った今、過去の販売手法のように商品を押し付けることは無意味だ。

ショップは、ブランドビジョンに共感したエンドユーザーが、自身の感性で商品を選べるようにサポートする役割へと変化してきている。ライフスタイル商品も食品のように、生産者の顔やモノ作りの意思が見える様、どうやって透明性のある情報を提供できるか、それが鍵となってくる。

コロナにより加速的に変化する消費行動に伴い、“販売におけるニューノーマルなあり方”を日々模索し続けるのは容易なことではない。しかし消費が不安定な今だからこそ、前に進んでいく必要がある。商品同様に、販売手法にも起こりつつあるイノベーションの着地点はどこにあるのか。MMDでは今後もインタビューを通じて、これからのセレクトショップの販売手法の可能性を探っていきたい。