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堀田健一郎氏の考えるVM

日本のVMDと世界のVM

「これからはVMDではなくVMという考え方にシフトしていかないと勝ち抜くことが難しくなると思います」。そう語るのはヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ株式会社 代表取締役社長 堀田 健一郎 (ホッタ ケンイチロウ) 氏。

VMDとVMはどちらも「ヴィジュアル・マーチャンダイジング」を表す略語である。今回MMDは名だたるハイブランドでのVMD責任者を担ってきた堀田氏に、これからのセレクトショップに必要な“VM (ヴィジュアル・マーチャンダイジング) ”の概念と、その重要性を伺った。

ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ株式会社
https://vmstudio.jp/
2019年3月設立。VMコンサルティングからデザイン・施工まで、VMの課題に対して全領域でサポートを行える数少ない会社のひとつ。中でもVMを一から習得するための人材教育や採用支援など、VM領域を網羅したサポートの提供を行えることが他にない特徴。また、ファッション領域に特化したソリューショングループ「ワールド・モード・ホールディングス株式会社」の各グループ会社との連携によるパフォーマンス、ソリューションも可能となっている。

現在の日本では「VMD=MDをヴィジュアル化する役割」と定義されている。それは“Merchandising (マーチャンダイジング) ”の和製略語であるMDという言葉が先に浸透した日本では、MDという役割とそれを中心にディスプレイを施すことがVMDの定石とされてきたからだろう。

しかし、昨今欧米をはじめとする海外では、単にMDをヴィジュアル化するだけでなく、マーケティングやコミュニケーションなど、机上では成立しない意味と役割を持たせた概念 (=VM) が主流となっているようだ。その変換が業界やセレクトショップに与える効果とは?VMD元いVMの第一線に立つ堀田氏に学ぶ。

堀田健一郎 KENICHIRO HOTTA
ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ株式会社<以下VMS>代表取締役社長 兼 ワールド・モード・ホールディングス<以下WMH>の上席執行役員。23歳の時、BEAMSの販売スタッフとしてアパレル業界に。転職先の「イッセイ ミヤケ」で青山店の店長を経て、新設されたVMD部署の責任者に抜擢される。その後「ドルチェ&ガッバーナ ジャパン」「ルイ・ヴィトン ジャパン」のVM責任者を務め、2019年3月VMを主軸事業とする会社であるVMSを設立。

VM責任者としてのキャリア

これまでのキャリアについて教えてください

− 堀田氏コメント:2017年までルイ・ヴィトン ジャパンで5年間、その前はドルチェ&ガッバーナ ジャパンで7年間、どちらもVMの責任者を務め、ドルチェ&ガッバーナではMDも1年半ほど担当していました。

ディスプレイの仕事が重要だと認識したのは、BEAMSで販売スタッフをしていた頃です。スムーズに話しかけているスタッフとそうでない人の違いを注意して見てみると、お客様が興味を示す前段には必ず「良い商品」か「良いディスプレイ」が存在すると気づきました。

さらに本格的に取り組みはじめたのが、イッセイ ミヤケ で青山店の店長を務めていた時。素晴らしい商品とMD計画があるのになかなかお店に人が入ってくれず、「なぜだろう?」と考えたことでした。

そこから来店客数を伸ばすためにディスプレイを工夫するようになります。実際に効果や変化を感じることで重要性を認識し、自分にはVMの仕事が向いているのではないかと思うようになったんです。

その当時、イッセイ ミヤケに「VMD」という部署はなかったので、社長に手紙を書き、その必要性を訴えたりもしました。そんな甲斐もあってか間もなく新設された「VMD」の部署では責任者を任されました。そこから今日までブランドを変えながらもずっとVMに携わっています。

進化すべきVMDの概念

20年以上VMDを生業にされているんですね

− 堀田氏コメント:私は23歳でアパレル業界に入り、はじめはBEAMSで販売員のアルバイトをしていたんです。BEAMSには当時の業界では珍しく「VMD」専属の方がいて、その頃から憧れを感じていました。

当時、初めて教わった「VMD」の定義は「MDのヴィジュアル化」。MD担当者が用意した商品をもとに“美しくデコレーションする”という作業でした。でも今は時代が変わったのもあって、MDを単純にヴィジュアル化するだけの「VMD」では必要な効果が得られなくなってきています。

現在欧米ではヴィジュアルマーチャンダイジングを“VM”と呼称して、マーケティング視点でディスプレイ演出を行うことを基本としています。我々VMSでもVMと呼んでいますが、MD起点からの「VMD」概念や呼称が強く残っているのは、おそらくアジア圏だけでしょうね。

その原因はなんなのでしょうか

− 堀田氏コメント:セレクトショップやアパレルの文化が要因だと考えています。これらの業界では昔からMD担当者とバイヤー、この2つの職種の権力が強いんです。私もトップバイヤーになりたいと思ってましたし、誰もが憧れる花形でもありますよね。

「VMD」は「あくまでMDから派生してできた役割」という考えが、世界との隔たりを作ってしまっている要因かもしれません。日本では今でも多くのショップでMD担当者・バイヤーが用意したモノの“見せ方だけ”を追求することが「VMD」とされている。そういう見せ方、売り方が当たり前でそれでモノが売れた時代もありましたが、これからは違うんじゃないかな。昔と今とではモノの売り方もPRの方法も全く異なっているんです。

マーケティング視点でのVM

VMとVMDでは考え方が違うということですか?

− 堀田氏コメント:MDありきの「VMD」という考え方に対して、マーケティングの一要素としてのVMと捉えてもらうといいかもしれません。

よくCX (カスタマーエクスペリエンス) と言われますが、いかに消費者の心に影響を与えるか、記憶に残してもらうか、そういった視点が重要です。消費者が店舗にいる間だけでなく、その前後、そして周囲にも影響を与えるものをVMとして創っていかなければ意味がありません。

例えば、店頭に写真を撮りたくなるようなディスプレイを仕掛けたとします。その場で購買にまで至らなかったとしても、家に帰ってから撮った写真を見て、ブランドやショップ、商品のことを回想してもらえる時間ができますよね。それがきっかけになって、もしかしたら再来店してくれるかもしれないし、ECで購入してくれるかもしれない。

VMSにてVMを手掛ける「&mall THE STORE」。エントランスにある巨大な花の装飾が目を引く。

− 堀田氏コメント:さらにはSNSに上げてもらえるような仕組みまで考えておくことも重要です。我々はInstagramに投稿する際のハッシュタグの内容まで考えてディスプレイを創っています。なぜならそれら拡散された写真や情報は、別の消費者を呼び込むためのトリガーにもなるからです。

こういったVMの役割は、単純に“ディスプレイ”という枠組みに収まらない「ブランド戦略や戦術を可視化するもの」であり、売上に大きく貢献・影響してくるでしょう。まだまだ日本での浸透は弱いですが、もっと多くのブランドやセレクトショップにこの概念が伝わってほしいですね。

VMから見るセレクトショップの課題

今のセレクトショップに足りないと感じるものはありますか

− 堀田氏コメント:個性ですかね。これは良くも悪くも日本らしさでもありますが、ひとつの成功事例を横並びに真似ることは一概に良いとは言えません。どこのショップも表現が同一化していることが現状の課題でしょうね。

アパレルでいえば、店舗に入ってすぐ正面に平台があり、その上に新商品を着せたマネキンを立たせるという手法。よく見かけると思います。もちろん、店に入ってすぐに新商品が目に入るという「VMD」の基本のセオリーに則っていて、間違ったことではありません。

ですが、今これだけセレクトショップが増え、商品や価格帯も多様化し、ペルソナもそれぞれ異なるはずなのに、店頭に行けば一様に同じ表現装飾をしているというところに疑問を抱いてほしいんです。もっと個性を出して、楽しむこと、それが大切じゃないでしょうか。

今すぐできるVM

では、何からはじめたらいいのでしょう

− 堀田氏コメント:まず、「個性(=クセ)を表現する」ことです。皆と同じことを辞めてみる。そして成功している会社やブランドを単に真似するのでなく、分析して「なぜ成功しているのか」その本質を探ってみることです。

次に、「店舗のメディア化」。先ほどお話ししたCXを考慮したVMですね。SNSやポストコロナ禍でニーズが高まっているライブコマースなどオンラインでの施策はもちろんですが、オフラインでも同様のことが言えます。

例えば、以前の「VMD」では、主にお客様が店に入ってからの店内での導線を考えることが多かったと思いますが、今は「どうやって店に入ってきてもらうか」という、通りから店舗への導線を考えないといけない時代になってきている。そのためには、店内だけでなく店外からどう見えているかまで把握することが重要です。

様々な視点からVMを考えていく事が重要

− 堀田氏コメント:その一方で、外にだけ魅せたディスプレイでもいけない。後ろから見ても、欲を言えば360度どこから見ても楽しめるようなディスプレイこそ目指すべきVMだと思っています。

VMは今すぐ取り組めて効果が期待できる大きな要素のひとつです。普段より時間を掛け、ディスプレイに力を入れてみてください。今日と明日で変えてみるでも構いません。お店自体が消費者に語りかけるようなVMを創ることができれば、きっと大きな変化を感じられると思います。

インタビューにお答え頂き、ありがとうございました。

未来を見据えた教育への想い

今回のインタビューの中で、堀田氏からは度々「教育」というワードが出ていた。「戦略デザインやPRと連動したSNS施策などマーケティング視点で活動すべき」「VMはイチ担当者だけでなくスタッフ全員に理解させ、意識させること」――堀田氏が自身のキャリアを通して感じてきたことを惜しみなく伝えたいという想い、そして今後の業界の未来を良くしていこうとする意気込みを強く感じた。

その姿勢は実際に彼の設立した会社の事業内容にも反映されており、VMSはVMとしての実務だけでなく人材育成も行っている。最新のVMを理解し実践するスペシャリストは日本には少なく、また理解していてもそれをロジカルに説明できるリーダーが不足している中で、VMの草分けともいえる堀田氏の考え方を講習・講演という形で直接聞くことは、これからのVMを学びたい人やスキルアップしていきたい人にとって願ってもない場となるだろう。

また、9月からは東京と大阪の2つのエリアでVMのプロフェッショナルを養成する「VMアカデミー」を開校しており、VM育成に今後も力を入れていく方針だという。

これまで会社の中のひとつの部署や役割だったVMDに可能性を見出した堀田氏。たどり着いた先は未だかつてなかったVM事業での独立と教育である。この先の彼の活躍に、そしてセレクトショップという業界全体でのVMの飛躍にも期待したい。