INTERVIEW,  SHOP

「雨晴」が目指す、自然のある暮らし <後編>

「作り手」と「エンドユーザー」を繋ぐ「場」

ガラス作家おおやぶみよ氏の世界観を表現した展覧会

人々の暮らしが便利になっていく一方で、身近な自然を感じにくくなっている今日。MMDでは前回、自然から作られた、いわば自然の塊ともいえる日本の工芸品を中心にセレクトするブランド「雨晴 (アマハレ ) 」の主人である金子憲一 (カネコ ケンイチ) 氏に取材を行った。

植物を飾ることだけではなく工芸品を暮らしに取り入れることでも、自然とちょうど良い距離感を持った暮らしが叶えられるのだと話してくれた金子氏。「雨晴」が目指す、自然のあるくらし <前編> に引き続き、この<後編>では、作り手と「雨晴」が考える暮らしの提案とともに、「雨晴」が目指している「日本一の品揃えのブランド」という目標を紐解いていく。

雨晴 / AMAHARE
https://amahare.jp
「雨の日も晴れの日も心からくつろげるくらし」をコンセプトに、現代の日本人にとって本当に心地よいくらしをお客様と作り手と共に一緒に考えるブランド。自然に寄り添いながら、日本各地の作家・職人が生み出す器や花器、オブジェ、盆栽などの工芸品を中心にセレクトを行う。東京都港区白金台のメインストリート、プラチナ通りに構える店舗では、様々な作家の展覧会を定期的に開催している。

作家の想いを表現する展覧会

2020/10/23から開催する木漆工とけしの展覧会「漆とご馳走」

「雨晴」が考える作り手とエンドユーザーを繋ぐ「場」とはどういうものですか?

− 金子氏コメント:雨晴では月に一度、様々な作家の作品を紹介する展覧会を行っています。展覧会というとアート的要素の強い、敷居の高いものを想像する人もいるかもしれませんが、僕たちが何よりも大切にしているのは、作り手が自身の暮らしをどのように見つめ、どのような考えをもってモノ作りをしているのかを伝えることです。

お客様一人一人の暮らしはその方が自由に作りあげていくものなので、展覧会を通じてご自身の暮らしがより良くなることを想像していただけたら嬉しいです。そのためにもコンセプトを明確にして、作り手と私たちからのメッセージが少しでも伝わるように努力しています。

コンセプトはどのように決めているのですか?

− 金子氏コメント:作家とのコミュニケーションをしっかりと取り、想いを理解することから始まります。例えば雨晴で初めて展覧会を開催する作家の場合、まずは自身の作品の価値をよりたくさんの人に伝え、良いものとして評価してもらいたいという気持ちを強く持っていることが多いんです。

雨晴にとっても初お披露目の場となるので、作家の想いと作品がもつ本質的な美しさが正しく伝わることを重視してコンセプトを考えるように心がけています。

展覧会 宮城正幸 × 雨晴「みんなで乾杯!」

−金子氏コメント:2020年9月には今年で4回目となる沖縄の陶芸作家「宮城正幸」さんの展覧会を開催しました。過去の展覧会ではスタイリッシュなビジュアルでの訴求をしていましたが、今回はこれまでとは違う視点でコンセプトを考えました。

「コロナ禍で外出しにくい状況だからこそ、ご自宅で明るく乾杯して、少しでも前向きな気持ちになってもらいたい」という宮城さんの優しい想いを伺い、ご家族と過ごすおだやかな時間を想像しながら展覧会のコンセプトを創り上げました。

新しい暮らしの価値を生み出すコミュニティ

品品 小林健二氏による盆栽教室の様子

展覧会がエンドユーザーと作家を繋げるひとつの「場」になっているのですね。

−金子氏コメント:展覧会はブランドコンセプトにもある「皆様と一緒に心地よい暮らしを考えつくる」場でありたいなと思います。

作家と僕たちが一緒に考えた今の暮らしへの投げかけをきっかけにお客様との会話が始まり、そこで生まれた新たな価値がそれぞれの心地よい暮らしへ反映されていく、そういう時間を皆様と共有できれば嬉しいですね。

宮城正幸氏のワインカップ

− 金子氏コメント:展覧会などのイベントには、有名店のトップシェフやソムリエ、フローリストなど工芸品と関わりの深いプロフェッショナルな方に参加してもらうこともあります。

陶器のワインカップを初めて雨晴で販売した時のことですが、「ワインにはガラス製のカップが合う」と考える方が多いだろうなと思い、お客様に受け入れて頂けるか不安に感じていました。

イベントをお願いしていたソムリエの方にその旨をお伝えしたところ「ワインの原点であるグルジア(ジョージア)のワインは、陶器の甕で醸造されているのだから、陶器のカップとの相性はきっとよいはず」とアドバイスを頂いたのです。

その言葉が自信に繋がり、お客様にもワインとカップの関係性をうまくお伝えできたよいイベントとなりました。

雨晴が目指す日本一のブランド

金子氏と景色盆栽作家 小林健二氏

取り扱う作家や作品はどのように決めているのでしょうか?

− 金子氏コメント:これはよくご質問いただくことなのですが、出会いは本当に様々です。僕自身が昔からファンだった作家とのお取引も多く、長い方では10年から15年のお付き合いなんです。新しい作品との出会いでは、急須を探して常滑焼の産地で伝統産業会館に訪れた時、ひと目見てピンときた作品があったので紹介をお願いしたところ、ちょうどその作り手の奥さんが納品に来ていて、そのまま家に連れていってもらえるという偶然もありました。

また、何度も足を運んでいる沖縄でのことです。取引先の窯元との飲み会で、当時はお弟子さんだった方と知り合い、その後独立されて新規のお取引に繋がることもありました。その土地に行って、親しくなりコミュニティが広がっていくことも多いですね。

自分の感覚だけで選ぶとブランドコンセプトからぶれてしまうことがあるので、「ものの決めごと」という作品選びの基準を定めています。直感的で何にもとらわれない自由な視点と、「ものの決めごと」を掛け合わせて作品を選ぶことで統一された世界観を表現できると考えています。

一般的な売れ筋というのもあまり意識していません。「10年経っても使い続けたい」と思っていただけるような作品を取り扱いたいと考えているので、今売れているかではなく、この先も使い続けたいかという視点を持って選んでいるつもりです。

長くお店を運営していると周辺環境の変化から、MDを余儀なく変更するということは経営視点で見ればごく当たり前なことだとは思いますが、この5年間雨晴はそれをしてきませんでした。今後も自分たちが考える道筋に沿って進化し続けたいと考えています。

この点については雨晴に関わる誰もがそう考えてくれていると思いますし、同じ方向を向いて進んでいけるということは本当に心強いことです。

ガラス作家 おおやぶみよ氏の制作の様子

自由な視点で本当に良いと思えるモノを選ぶ雨晴が目指すのはどんなお店ですか?

− 金子氏コメント:自分たちが信じるものを大切にしながら、日本でいちばん品揃えの良いお店にしたいと思っています。それは単に商品が沢山あるという意味ではありません。個人の作家や職人など生産の規模はそれぞれですが、どちらもこだわりを持って作っているので大量生産は難しいんです。

納期が半年後と決まっていても、作り手に何らかのアクシデントがあったり、窯が故障したりと様々な理由で遅れることもあります。そうすると当然品切れが起こってしまいますが、そんなアナログな世界観の中に人間臭さがあり、それが作品の魅力にも繋がっているのだと思います。

安定供給だけを目指したら、つまらない品揃えになってしまうし、丸いものがいつもきちんと丸いことや、欲しい時にいつでもどこでも買えるものを用意するのは僕たちでなくても良いのではないでしょうか。ご来店いただいたお客様に「いつ来ても愉しいお店ですね」と喜んでいただける場所でありたいです。

おおやぶみよ氏の展覧会「禁断のあお」のビジュアル

− 金子氏コメント:コンセプトを貫き、情緒的な要素をきちんと理解しながら日本一の品揃えの良さを目指すことは、事業として継続維持していく上で簡単ではありません。でも日本人としての心地よい暮らしを考えてその品質で工芸品を集めた時、日本だけでなく海外のお客様にも日本の工芸品の魅力をお伝えできるのではないかと考えています。

世界的にも有名なシェフの方が雨晴の顧客を通じて食器などを探しに来て下さったのは本当に嬉しい出来事でした。これまで妥協することなく自分たちの価値観を信じ、ブレないチームワークでやってきたことが形になってきていると実感しています。

オンラインコミュニケーションへの挑戦

2020年6月にリニューアルしたオンラインショップ「雨晴食堂」

今後の目標について聞かせてください。

− 金子氏コメント:2ヶ月ほど店舗をお休みした緊急事態宣言時を経て、店舗を主体にブランディングを行い、対面コミュニケーションが最優先だった運営から、オンラインの併用も強く意識するようになりました。

オンラインツールの良いところは暮らしの具体的なイメージをビジュアル化できることでしょうか。店頭では器に料理を盛り付けてディスプレイをすることは難しいですが、オンラインであればそれも叶います。店舗で出来ることとオンラインで出来ること、それぞれの役割を明確にして今後も運営していきたいと考えています。

作品に触れられなくても価値観を伝える方法を、作家や様々なジャンルのプロフェッショナルの方々と話し合いながら考えているのですが、モノの特性上パターン化しにくい部分もあり、ある作家の作品では正解でも他の作家にあてはまるとは限らないんです。

作品の個性を理解してお客様に伝えるのが私たちの仕事なので、作り手とコミュニケーションをとりながらオンラインでもそれぞれの魅力をお伝えできるようにするのが目標ですね。

工芸が好きな人にもまだその魅力をお届けできていない方にも、様々な方法で情報をシェアしながら、工芸に対してある種の憧れを持っていただけるような、そんな価値観を共有できる場所となることを今後も目指していきます。

インタビューにお答えいただきありがとうございました。

求められる価値観や伝え方の進化

茶道楽の父の影響で幼い頃から工芸が身近にあった金子氏が、その魅力に気づいたのは大学時代だという。工芸品を扱うブランドの立ち上げに携わり、初めて見た鉄瓶の美しさに魅かれた時の感動が忘れられず、もし自分が日本の工芸の価値を伝える仕事につけたとしたら、それはライフワークになるかもしれないとうっすらと感じたのだと話してくれた。

彼はその感性と人柄で、身近な自然や素材と真摯に向き合い、暮らしを楽しみながらモノ作りに励む作家や生産地に自ら赴き、ヒントを得ているのだろう。そうしてその知見を「雨晴」に落とし込み、独自のフィルターで作家とエンドユーザーの繋ぎ役としての場を作っている。

今回のインタビューでMMDは、セレクトショップが担うべき新たな役割や価値観の伝え方について改めて考えさせられた。「展示会MAG.とオンライン展示会MAG.+」でも触れたように、DtoCが進む今、「目利きの伝達者」として自分たちにしかできないキュレーション力を磨き、それを発揮する場を作り上げてブランド価値を正確に伝えていくことが求められている。

コロナショックが私たちの生活に与えた変化は、伝え方や価値観の在り方さえも変え、「雨晴」に限らず多くのセレクトショップはこれから更なる進化を求められることになるだろう。オンラインの課題とオフラインの融合がどのようなカタチで進んでいくのか、新たな試みをこれからも取材していく。